
過去20年の調査研究によって,いまから7500万~7000万年前のアラスカに8種類の恐竜が生息していたことが明らかになった。これらの恐竜は寒くて暗い長い冬を生き抜くことができるよう,うまく適応していたに違いない。それを示す手がかりが見つかりつつある。
8種類のうち4種は植物食の恐竜,他の4種は獣脚類と呼ばれる肉食恐竜だ。いずれも年代は白亜紀(1億4500万~6500万年前)にさかのぼるが,ほとんどは白亜紀の終わり近く,7500万~7000万年前に集中している。これは有名な恐竜大絶滅のわずか500万年ほど前にあたる。
当時は確かに地球全体が現在よりも暖かかったものの,高緯度地方の気候は,雪の降る寒い冬や数カ月間に及ぶ暗闇の季節など,やはり厳しいものだった。彼らがどうやって生き延びていたのか,完全には説明がついていない。一部の恐竜は,餌をあまり食べなくても生きていけるよう,代謝率を下げるようなことをしていたのだろう。
何らかの適応をしていたと思われる最も明確な例は小型の肉食恐竜トロオドン(Troodon)だ。彼らは例外的に大きな目を持っている。このため暗い環境のなかで他の生物との競争上で有利になり,極北の生態系で最も優勢な捕食者になったと考えられる。北極圏のトロオドンは南で見つかったものに比べて大きさが2倍近くもある。
これらアラスカの恐竜は他の恐竜たちと同時に滅んだのだろうか。アラスカには白亜期末の恐竜絶滅と同時代の地層が残っている。ちょうどその時代の恐竜化石はまだ見つかっていないが,今後の調査研究で発掘されれば,恐竜絶滅に新たな光を当てることができるに違いない。
著者
Anthony R. Fiorillo
本人の記憶を可能な限りさかのぼると,ニューヨーク・ヤンキースのセンターを守るか,恐竜の研究をするか,そのどちらかをしたいと幼いころから思っていたという。両親の老後の生活には大損害となったが,彼は恐竜の専門家になった。1989年にペンシルベニア大学から古生物学の分野でPh.D.を取得。カーネギー自然史博物館とカリフォルニア大学バークレー校古生物学博物館を経て,1995年からダラス自然史博物館の地球科学部門のキュレーター(研究者兼標本管理者)となった。サザンメソジスト大学の非常勤准教授を併任。
原題名
The Dinosaurs of Arctic Alaska(SCIENTIFIC AMERICAN December 2004)
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