
巨大な雹(ひょう)が東京に降り注ぎ,竜巻がカリフォルニアを襲う。突然に氷河期になったかのような気候の激変が起きたのだ。北米にいた何百万もの人々は温暖なメキシコに逃れ,凍てついたニューヨークに残された人々にはオオカミが忍び寄る──ハリウッドの災害パニック映画『デイ・アフター・トゥモロー』では,こんな世界が描かれている。
近いうちに大規模で急激な気候変動が起きる可能性はあるのだろうか。それとも映画制作会社が大げさに作ったのだろうか。この2つの問いに対する答えはどちらもノーだ。気候の専門家の多くは数十年以内に本格的な氷河期が来ることはないと考えている。だが突然の劇的な気候変動は過去に何度も起きており,これが再び起きる可能性はある。実を言うと気候変動はたぶん避けられない。
急激な気候変動は非常に深刻な状況を招く。というのも,急変した気候がそのまま数百年あるいは数千年も続くことがあるからだ。実際に,急激な気候変動がおもな原因となって滅亡した古代の社会集団もあると現在では考えられている。以前は文明が滅びるのは社会的,経済的,政治的要因がおもな理由だと考えられていた。
急激な気候変動に比べれば,人間が引き起こした地球温暖化はむしろ緩やかで,その影響はささいに思えてしまうだろう。だが新たな研究から地球温暖化はこれまで以上に懸念すべき問題であることが示された。温暖化によって突然の気候激変が早まる可能性があるからだ。ゆっくりとした温暖化が,氷河期の突然の襲来を招く恐れがある。
著者
Richard B. Alley
ペンシルベニア州立大学の地球科学の教授で同大学地球システム研究センターにも所属する。ウィスコンシン大学マディソン校で地質学のPh.D.を取得後,氷河や氷床に残された過去の気候変動の記録や,氷河・氷床が流動したことによる海水準の変化,地面への浸食,堆積物の形成に関する研究に取り組んできた。南極で3回,グリーンランドで5回の現地調査に参加し,過去11万年におよぶ地球の気候の歴史を示す重要な氷コアをいくつも採取するのに協力した。グリーンランドで採取した全長3200mにおよぶ氷コアの分析結果を綴った一般向けの著書『氷に刻まれた地球11万年の記憶』(ソニー・マガジン社)で2001年にファイベータカッパ科学賞を受賞している。
原題名
Abrupt Climate Change(SCIENTIFIC AMERICAN November 2004)
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海洋ベルトコンベヤー/急激な気候変動/ACC/グリーンランドの氷コア/水循環/気候変動に関する政府間パネル/IPCC