日経サイエンス  2005年1月号

逆転の発想 インターネットゼロ

N.ガーシェンフェルド(マサチューセッツ工科大学) R. クリコリアン(マサチューセッツ工科大学) D. コーエン(サン・マイクロシステムズ)

 およそ100年前,バルセロナでガウディ(AntonioGaudi)は外観の美しさと構造的な強さを兼ね備えた優美な建築様式を考えだした。ガウディの建物の表情豊かな曲線は,表面の装飾のためばかりでなく,耐荷重構造に不可欠でもある。

 

 残念ながら,ガウディの建物のような統一は,屋内の電子インフラにはまだ図られていない。スイッチやソケット,サーモスタットは後付けで構造に継ぎ足され,配線は壁や床に埋め込まれるため機能が限定される。電気器具やコンピューターはさらに後から割り込んでくる。多くの家庭やオフィスで,さまざまな機器がそれぞればらばらの時刻を表示していることからわかるように,たいていの機器は他の機器と対話できない。

 

 これまで何年にもわたって,家庭内の機器を相互接続するための標準が次々と開発されてきた。そうした標準にはX10,LonWorks,CEBus,BACnet,ZigBee,ブルートゥース,IrDA,HomePlugなどがある。現在の状況はインターネットの前身,アーパネット(Arpanet)が開発された1960年代に似ている。

 

 インターネットは徐々に拡大し,遠隔コンピューターアクセスや電子商取引,双方向テレビといったさまざまな分野に応用されてきている。こうしたサービスが登場するたびにパケットが運ぶデータの種類も新しくなったが,そのために技術者たちがネットワークのハードウエアやソフトウエアを変更する必要はなかった。

 

 このような原理に基づいたインターネットは30年間成長を続け,性能と規模の両面で7桁も大きくなった(草創期のアーパネット当時は64サイト,現在は2億台の登録ホストを数える)。インターネットは時代を超えてすぐれたシステム設計であるとともに,特定の性能を要求しない点で卓越している。多くの労力とすぐれた方針のおかげで技術に依存する要因を仕様から排除したため,ハードウエアはインターネットの基本的なアーキテクチャーを変更することなく進化できた。

 

 同じ考え方で,異種のネットワークではなく,異種の機器を接続するという問題も解決できる。だがインターネットを電球ひとつひとつにまで拡張するためには,インターネットの当初の接続対象だった大型コンピューターと電球を比較し,類似点と相違点をはっきりさせる必要がある。

著者

Neil Gershenfeld / Raffi Krikorian / Danny Cohen

3人はいずれも従来の学問分野の境界線に逆らうことで成功している研究者だ。ガーシェンフェルドはマサチューセッツ工科大学ビット・アンド・アトムズ・センター長だ。同センターは全米科学財団から支援を受けている。彼は量子コンピューターや自動車の安全システム,ヨーヨー・マのために開発したコンピューター・チェロからインドの農村の人々が使う道具に至るまで,あらゆるものにおける物理形態と論理機能の関係を研究している。クリコリアンはMITの大学院生で,インターネットゼロのハードウエアとソフトウエアの開発リーダーだ。彼の学会・産業界における成果は,きわめて小さな組み込みIPスタックから大きな分散コンピューティング・エンジンまで幅広い。インターネットゼロ・プロジェクトはこの2人と,サン・マイクロシステムズ社の卓越した技術者で,インターネットの創始者の1人であるコーエンとの共同研究から発展した。コーエンはIPの発展につながったアーパネット上でのリアルタイムの双方向アプリケーションを開発し,MOSISIC製造サービスを始めた。

原題名

The Internet of Things(SCIENTIFIC AMERICAN October 2004)

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