日経サイエンス  2004年12月号

特集:アインシュタイン「奇跡の年」から100年 

残された謎 宇宙定数の正体を追え

一般相対性理論

L.M. クラウス(ケース・ウェスタン・リザーブ大学) M. S. ターナー(シカゴ大学)

 宇宙の膨張が加速していることが近年になってわかり,長く忘れられていた「宇宙項(宇宙定数)」が物理学の世界に復活した。宇宙項はアインシュタイン(Albert Einstein)が導入し,後に否定したものだ。復活した宇宙項は,空っぽの空間を満たし,宇宙の加速膨張を引き起こす謎のエネルギーの存在を示している。

 

 1917年当時,アインシュタインも他の研究者と同様,宇宙は静的な存在に違いない(膨張も収縮もしていない)と固く信じていた。しかし,これは彼自身が構築した一般相対性理論の方程式と矛盾してしまう。困り果てたアインシュタインは,方程式にその場しのぎの余分な宇宙項を付け加えることで重力の効果を相殺し,静的な解を導いた。しかしその12年後,米国人天文学者のハッブル(Edwin Hubble)が宇宙の膨張を発見,アインシュタインは宇宙項の考えを撤回した。

 

 その後60年間,宇宙項は宇宙論の世界からすっかり姿を消した。宇宙は膨張しつつも,重力の効果で膨張のスピードは鈍ると考えられた。ところが1998年,超新星の観測結果から,過去50億年にわたって宇宙膨張は減速するどころか加速を続けてきたことがわかった。やはり,重力の効果を打ち消すような力が働いていることになる。

 

 これが現在でいう宇宙定数で,量子論から予想される「真空のエネルギー」に相当するのではないかと考えられている。あるいは,奇妙な未知のエネルギーの存在を示しているのかもしれず,これは暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と称されている。

 

 現在の宇宙膨張を引き起こしているエネルギーの源が何かを詳しく理解しない限り,宇宙の最終的な運命を明らかにすることはできない。この深遠でややこしい謎が解ければ,重力と自然界の他の力を統一することがついに可能になるかもしれない。それこそが,アインシュタインが追求してやまなかった夢なのだ。




再録:別冊日経サイエンス247「アインシュタイン 巨人の足跡と未解決問題」

著者

Lawrence M. Krauss / Michael S.Turner

アインシュタインが導入しその後撤回した宇宙項とは本質的に異なるエネルギーによって宇宙が支配されているという考え方を,早くから主張してきた。クラウスはケース・ウェスタン・リザーブ大学の物理学科長。『スタートレックの物理学(ThePhysics of Star Trek)』など,一般向けの本を7冊執筆している。ターナーはシカゴ大学のローナー記念講座教授。現在,全米科学財団で数学と物理学部門の副部長を務めている。

原題名

A Cosmic Conundrum(SCIENTIFIC AMERICAN September 2004)

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