日経サイエンス  2004年12月号

特集:アインシュタイン「奇跡の年」から100年

特集:アインシュタイン 偉大なる遺産

プロローグ

G.スティックス(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 アインシュタイン(Albert Einstein)は20世紀の物理学の象徴として,いまも私たちの前にいる。彼の研究成果は人々の世界観を決定的に変えた。特殊相対性理論によって時間と空間の絶対性を完全に否定したほか,関係式E=mc2が原子爆弾開発のカギとなり,その後の歴史に大きな影響を与えたことは誰もが知っている。

 

 光電効果の説明は量子力学の基礎となり,1921年度のノーベル賞(1922年授与)を彼にもたらした。ブラウン運動の理論は統計力学を近代化,誘導放出に関する理論は後にレーザーとして結実した。そして,アインシュタインの最大の業績は重力を時空の幾何学として説明した一般相対性理論だといえるだろう。

 

 驚くべきことに,これらの研究の多くは1905年のたった1年間に書かれた一連の論文による。1905年はアインシュタインの「奇跡の年」であり,その100周年を記念して,世界の物理学界はきたる2005年を「世界物理年」に定めた。

 

 1955年に亡くなるまでの後半生は統一場理論の構築に心血を注いだが,この努力は結局のところ実らなかった。現在の科学者たちもまた,森羅万象を説明する「究極理論」の構築に取り組んでいる。現代物理学の最もエキサイティングな研究は「アインシュタインを超える」という野心的目標を掲げた挑戦だ。彼の知的遺産は新世代の物理学者にしっかりと受け継がれている。

原題名

The Patent Clerk's Legacy(SCIENTIFIC AMERICAN September 2004)

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