日経サイエンス  2004年11月号

宇宙のすぐれもの エネルギーを生むテザー衛星

E.ロレンツィーニ(ハーバード・スミソニアン天体物理学センター) J. サンマルティン(マドリード工科大学)

 宇宙にはガソリンスタンドのような補給基地は存在しない。だから,どんな宇宙船もミッション遂行に必要となるエネルギー源をあらかじめ積み込んだうえで出発する。通常は化学推進剤や太陽電池,原子炉などだ。さもなければ,宇宙船まで燃料を送り届けるしかないが,これには恐ろしくコストがかかる。

 

 例えば,国際宇宙ステーションがそうだ。ステーションの高度は放っておくと徐々に下がってしまう。高度360kmの軌道を維持するだけでも,10年の推定寿命の間に77トンものブースター用推進剤が必要だ。1ポンド(約454g)の推進剤を軌道上に送り届けるのに7000ドルかかるとして(これでも現在の打ち上げ費用に比べて極めて安価),高度を保つだけで12億ドルかかる計算になる。木星のような外惑星の探査はさらにやっかいで,太陽からの距離が遠くなるにつれて太陽電池の発電効率は低下するし,燃料を遠くまで運んでいくのも大きな負担になる。

 

 このような問題を解決するため,かつて宇宙実験も進められてきた「テザー衛星」が改めて見直され始めている(テザーとは物体をつなぎとめるひもの意味)。物理の基本法則をうまく使って,姿勢制御や人工重力,電力,さらには推力や抗力を作り出すテザーの技術は,宇宙船に積む化学的なエネルギー源を大幅に削減,もしくは皆無にすることも可能だ。

 

 テザーシステムとは柔軟なケーブルで2つの物体を接続したシステムで,特にケーブルに導電性を持たせたものをエレクトロダイナミックテザーと呼ぶ。従来のロケットは宇宙船と推進剤との間で運動量を交換しているが,エレクトロダイナミックテザーでは,自転する惑星との間で惑星の磁場を介して運動量が交換される。

 

 エレクトロダイナミックテザーの応用範囲は惑星探査ミッションに留まらず,低高度軌道で用いれば,衛星の軌道維持だけでなく,軌道を周回する宇宙ごみ(デブリ)を撤去できるし,燃料電池よりも高効率で発電できると期待されている。

著者

Enrico Lorenzini / Juan Sanmartín

10 年の間,2 人はともにテザープロジェクトに取り組んできた。ロレンツィーニはハーバー ド・スミソニアン天体物理学センター(マサチューセッツ州ケンブリッジ)の宇宙科学者。 1995 年以来,彼が率いてきたのは今は亡きスペーステザー研究の先駆者,グロッシとコロンボ の研究グループだ。博士号はイタリアのピサ大学で取得した。サンマルティンは1974 年以来, スペインのマドリード工科大学で物理学の教授を務めている。それ以前には,プリンストン大 学やマサチューセッツ工科大学で働いた経験もある。博士号はコロラド大学とマドリード工科 大学で取得した。

原題名

Electrodynamic Tethers in Space(SCIENTIFIC AMERICAN August 2004)

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