日経サイエンス  2004年11月号

特集:イネゲノムの挑戦

ポストイネゲノムの課題

加藤勇治(日経BP社日経バイオビジネス)

 イネゲノム塩基配列の完全解読も間近に迫っている。最終的に日本の貢献は50%を超え,世界に誇れる成果を示すことができた。日本の強い主張もあって,国際イネゲノム解析プロジェクトは精度99.99%という正確なイネの「辞書」を完成させた。
 だが,こうして得られたゲノム情報や新しい育種法を活用し,日本が農業ビジネスで優位に立てるかどうかは予断を許さない。欧米の狙いはイネゲノムをトウモロコシやコムギの育種に応用することで,このために米国では研究助成を大幅に増額している。一方,日本のイネ研究は長年,政府や公的研究機関主導で進められてきたため,研究開発コストや人件費の点で,民間企業は不利な立場に置かれてきた。80年代から90年代初めにイネビジネスに参入した民間企業のほとんどが,今では撤退している。
 しかし,農林水産省が2002年末にまとめた「米政策改革大綱」で「売れるコメ作り」を奨励したことから,状況が変わる可能性も出てきた。生産者や産地の間に強い競争意識が芽ばえれば,優良品種の提供をめぐってビジネスチャンスが生まれるはずだ。さらに国内だけでなく,輸出産業としても展望が開けるにちがいない。

著者

加藤勇治(かとう・ゆうじ)

日経BP社「日経バイオテク」副編集長。

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