日経サイエンス  2004年11月号

特集:イネゲノムの挑戦

理想のイネを求めて

松岡信(名古屋大学)

 ゲノムを利用した品種改良にとって,いちばん重要なのは有用遺伝子の特定である。著者らは60年代に劇的な穀物増産を実現した「緑の革命」で主役となったイネ品種から半矮性(草丈が低くなる性質)遺伝子sd1を突き止めた。草丈が低ければ風雨で倒れにくく,大量に肥料を与えても倒伏する心配がない。結果的に大きな収量を上げることができる。半矮性はイネの栽培にとって非常に有利な形質なのである。
 著者らが明らかにしたsd1遺伝子は植物成長ホルモン,ジベレリンの生合成にかかわる遺伝子の1つだ。ジベレリンは発芽,茎,葉,花芽などの成長を調節する物質なので,ジベレリン生合成に関与する多数の遺伝子は,高収量を目指す品種改良のターゲットになりうる。矮性以外にも利用可能な形質はいくつもあり,これらの中から新たな「緑の革命」遺伝子が見つかる可能性は高い。
 遺伝子の機能と染色体上の位置が明らかになれば,望ましい形質どうしを組み合わせて,新しい品種を作ることが可能だ。この方法の積み重ねによって理想のイネの作出する方法を「OTLピラミディング」と呼ぶ。
 急激な人口増加と環境破壊による耕地減少が進行する現在,食糧増産は人類の最優先課題になっている。日本が蓄積してきた系統や品種,優れた米作りの技術に,新しい分子遺伝学の成果が加われば,第二の「緑の革命」を実現できるはずだ。

著者

松岡信(まつおか・まこと)

名古屋大学生物機能開発利用研究センター教授。農学博士。名古屋大学大学院農学研究科博士課程修了。1983年に農林水産省植物ウィルス研究所に入所(改組により農業生物資源研究所に異動)。1991年にオーストラリア科学・産業研究機構(CSIRO)に客員研究員として滞在。筑波大学生物科学研究科助教授を経て1994年より現職。

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