日経サイエンス  2004年11月号

特集:イネゲノムの挑戦

特集:イネゲノムの挑戦 マーカー選抜育種法で生み出す未来の穀物

S.A. ゴフ J. M. サルメロン(シンジェンタ・バイオテクノロジー社)

 今年12月にイネゲノムの全解読が完了する予定だ。これを受けて,ゲノム情報を駆使した穀物の品種改良が急速に進むものと見られている。
 イネ,コムギ,トウモロコシの世界三大作物はいずれもイネ科植物だ。これらのゲノム構造は,想像されていた以上に共通性が高いことがわかった。イネのゲノムサイズは4億3000万塩基対で穀物ゲノムのなかでも最もコンパクトだ。そこで,イネで見つかった遺伝子を手がかりに,コムギやトウモロコシなど他の穀物で同じ機能をもつ遺伝子を探そうという研究も盛んになっている。
 こうして見つかった遺伝子を品種改良に生かす方法として,マーカー選抜育種に期待が寄せられている。DNA断片や遺伝子そのものを目印(マーカー)にして,遺伝子を作物に導入する方法で,幾度も戻し交雑を繰り返しながら,優良品種の一部だけを新しい遺伝子に置き換える。従来の育種に比べ大幅に時間を短縮できるだけでなく,ベクター(運び屋)を用いる導入法ではないため,組み換え植物のように承認を得る必要もない。
 現代の主要穀物は誕生後すでに3000年以上を経過しており,遺伝的な多様性が限られている。栽培に有利な新しい形質を加えるには,野生の近縁種が持つ遺伝子の宝庫を活用することが最も有効だ。

著者

Stephen A. Goff / John M. Salmeron

2人はノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パークにあるシンジェンタ・バイオテクノロジー社(SyngentaBiotechnology)の植物遺伝学者。ゴフは2002年に発表されたイネゲノムの概要配列の解読で米国チームを率いた。現在はイネの遺伝情報を開発途上国における農作物の改良に役立てようという人道的で先進的な研究に取り組んでいる。サルメロンは同社の応用形質遺伝学グループのリーダー。カリフォルニア大学バークレー校の博士研究員だった1989年から,農作物の改良に遺伝学を応用してきた。彼がトマトから見つけだした遺伝子は,植物から最初に発見された耐病性遺伝子の1つだ。

原題名

Back to the Future of Cereals(SCIENTIFIC AMERICAN August 2004)

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