日経サイエンス  2004年11月号

いよいよ身近になる導電性プラスチック

G.P. コリンズ(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 白川英樹博士らによる“電気を通すプラスチック”の研究はノーベル賞に輝いた。その基礎研究がここへ来て応用面で大きく花開こうとしている。非常に安価なICやディスプレー,センサーなど,さまざまな用途が開けそうだ。

 

 これまで,プラスチックはさまざまな製品の「骨格」や「皮膚」の役割を担い,シリコン半導体が「頭脳」だった。しかし,導電性の高分子や有機結晶の出現によって,プラスチックが頭脳部分にも進出しようとしている。

 

 導電性プラスチックで集積回路を作っても,シリコンチップのような集積度や高速動作は望めない。しかし,印刷と似た手軽な手法を使って生産できるので,非常に安価な素子ができる。消費財や家庭用機器にくまなく浸透していく可能性がある。

 

 パロアルト研究センターはインクジェット法だけで形成した初のプラスチック半導体トランジスタアレイを2003年に発表した。ダウとモトローラ,ゼロックスは高分子インクと印刷技術の開発で提携した。デュポンとルーセント・テクノロジーズ,ユニバーサル・ディスプレー,サーノフも同様の連合を組んでいる。

 

 考えられる用途としては,さまざまな機械やコンピューターの表示装置,電子ペーパー,ICタグ,身にまとえる電子機器,化学センサー,圧力を検知するロボット用の皮膚などがある。東京大学助教授の染谷隆夫(そめや・たかお)らは,軟らかなシートの中に有機トランジスタを組み込み,圧力を検知する人工皮膚を作った。ロボットの手や体に張り付ければ,ロボットに皮膚感覚を与えることができる。

原題名

Next Stretch for Plastic Electronics(SCIENTIFIC AMERICAN August 2004)

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