日経サイエンス  2004年10月号

平凡な星たちの華麗な最期

B.バリック(ワシントン大学) A. フランク(ロチェスター大学)

 シアトルにあるワシントン大学の天文学部からチフーリ(Dale Chihuly)の工房が見える。彼は有名なガラス工芸家で,光り輝き流れるような作品は海の生き物を生き生きと描き出す。

 

 彼の作品は天文学者の心をも捉えて離さない。華麗な天体構造「惑星状星雲」を彷彿させる美しさがあるからだ。死を迎えようとする星の光が周囲のガスを照らし,原子やイオンが蛍光を発して漆黒の宇宙を背景に光り輝く姿は,まるでそこに生命が宿っているかのようだ。この天体構造は「アリ星雲」,「双子のヒトデ星雲」,「キャッツアイ星雲」などと名付けられた。ハッブル宇宙望遠鏡が映し出す惑星状星雲は魅惑的な宇宙の姿を精巧に捉えていた。

 

 惑星状星雲という名前は,英国の天文学者ハーシェル(William Herschel)が200年前に付けたものだ。当時の望遠鏡では,惑星状星雲の多くはまるくぼんやりとしか見えなかったため,ハーシェルは自身が発見した緑色の惑星,天王星を連想し,若い恒星の周りで形成されつつある惑星系がこのように見えるのだろうと考えたのだ。

 

 しかし,実際は,形成段階の惑星系の姿ではなく,死にゆく星が吐き出すガスでできており,太陽系の過去ではなく,未来を映し出したものだったのだ。およそ50億年後には,太陽も同様に星の寿命をまっとうし,華麗な天体ショーを披露するのだろう。

 

 優れた芸術作品がそうであるように,惑星状星雲も私たちを魅了してやまない。その美しい姿を見ていると,私たちの世界認識が本当に正しいのかどうか,改めて考えさせられる。とりわけ,物理学によって描き出された「星の進化論」に疑問を感じずにいられない。この理論だけではハッブル宇宙望遠鏡が撮影した惑星状星雲の複雑な形をうまく説明できないのだ。もし星がまるい形で誕生し,まるい形で一生を過ごし,まるい形のまま死を迎えるとしたら,アリ星雲やヒトデ星雲,キャッツアイ星雲のような精巧な模様ができるはずはないではないか?

 

 

再録:別冊日経サイエンス187 「宇宙をひらく望遠鏡」

著者

Bruce Balick / Adam Frank

2人は惑星状星雲やその前段階の星に関して観測と理論の両面からの論文を数多く執筆している。バリックは5歳のときに惑星に関する本を父親が読みきかせてくれたことをきっかけに天文学者になることを決心したという。彼は星の生成や活動銀河核の研究で活躍し,現在はワシントン大学の天文学部で学部長を務めている。フランクも幼いころに父親の書斎に並んでいたSF雑誌『AmazingStories』の表紙にひかれて天文学に魅了された。だが,ニューヨークで育った彼は夜空に星がほんの数個しか見えないことに気づき,関心を理論に移した。現在ではロチェスター大学の教授となったフランクは,星の死や惑星の誕生など宇宙流体力学にまつわるさまざまな話題に興味を抱いている。

原題名

The Extraordinary Deaths of Ordinary Stars(SCIENTIFIC AMERICAN July 2004)

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