日経サイエンス  2004年10月号

ハイテク社会を揺るがす宇宙からの核攻撃

D.G. デュポン(軍事技術ジャーナリスト)

 大気圏外の宇宙で核爆弾を爆発させると人工衛星に深刻な障害が生じ,現代のハイテク経済社会は大打撃を受ける。テロの懸念が高まるなか,“宇宙核攻撃”に対する防衛策が必要になってきた。

 

 核弾頭装備ミサイルを地球を周回する低軌道に投入して爆発させると,強い電磁パルスによって地上の電気・通信システムがダウンするほか,人工衛星を利用した商用・軍事用のシステムに長期にわたって影響が出る。核爆発に伴うX線やガンマ線,高エネルギー中性子などが衛星の機器に障害を引き起こすからだ。大量の荷電粒子がバンアレン帯に似た人工の放射帯を作り出し,影響が長期に及ぶ。ハイテク経済は世界規模でマヒしかねない。

 

 衛星の本体や搭載機器を放射線から守るには遮蔽材で強化すればよいが,重量が重くなって打ち上げコストに大きく響く。また,非常に高エネルギーの電子は通常の遮蔽材では防ぎきれず,電荷が蓄積して破壊的な影響をもたらす。

 

 もし宇宙で核爆発が起きた場合にはどうするか。電離層に電磁波を注入するなどの処置を取れば,核爆発でできた膨大な数の荷電粒子を減らすことが可能だ。これによって,人工衛星の運用を再開できるようになるだろう。

 

 核兵器や弾道ミサイルの技術が世界に拡散するにつれ,より多くの国(非国家組織も含め)が低軌道で核爆発を起こす能力を手に入れる懸念が高まっている。攻撃の可能性は小さいが,事が起こればその結末は非常に深刻なので,無視はできない。

著者

Daniel G. Dupont

国防と軍事関連科学技術の問題に11年以上にわたって取り組んできた。オンラインニュースサービスInsideDefense.comの編集者であり,ニュースレターInsidethe Pentagonの発行人でもある。またWashington Post,Mother Jones,GovernmentExecutive, mediabistro.comなどに記事を執筆。SCIENTIFIC AMERICANにもたびたび寄稿している。ニューイングランド生まれで,現在はバージニア州アーリントンに妻,3人の息子と住んでいる。

原題名

Nuclear Explosions in Orbit(SCIENTIFIC AMERICAN June 2004)

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