日経サイエンス  2004年8月号

水素エネルギーに勝ち目はあるのか?

M.L. ウォールド(New York Times 紙)

 2003年,ブッシュ大統領は17億ドルの研究計画を発表した。環境汚染のない自動車を開発して,石油の輸入量を下げることが狙いだ。

 

 この発表から数カ月後の秋,トヨタ自動車がクリーンカーを2台も引っさげて,ワシントンに乗り込んできた。1台はすでに市場に出回っているハイブリッド車「プリウス」だ。ハイブリッド車はガソリンを燃料とする従来のエンジンに加え,バッテリー駆動のモーターを備えており,1ガロンのガソリンでおよそ50マイル(1Lで21km)を走行できる。温暖化ガスとなる二酸化炭素の排出量は平均的な自動車のおよそ半分だ。もう1台は試作品のRV車。水素燃料電池でモーターを駆動し,排出するのはミネラルウォーターの「ペリエ」よりもきれいな水とわずかな熱だけ。さて,一体どちらがクリーンな自動車なのか?

 

 この答えによって研究予算の行方は大きく左右され,ガソリン依存から脱却する新技術を育てるために政府がどのタイプの新エネルギー自動車を助成するかという戦略も変わってくる。最終的には,環境そのものにも大きなインパクトを及ぼすだろう。そして,その答えは多くの人の予想に反したものだ。トヨタの技術・規制問題担当部門の主任研究員ウィンマー(RobertWimmer)は,「ハイブリッド車と燃料電池車の環境性能はほぼ同じだ」と話す。

 

 「環境への影響を検討する際は,単に自動車の排ガス量に注目するのではなく,燃料の製造過程も含めて議論すべきだ」とウィンマーをはじめ多くの専門家たちが指摘している。燃料電池は高いエネルギー効率と環境性を併せ持ち,水素はすばらしい燃料だと考えられているが,水素の製造過程に目を向けると,従来の燃料よりもとりわけ優れているとはいえない。

著者

Matthew L. Wald

New York Times紙の記者で,1979年からエネルギー関連記事を担当している。これまでに石油精製,石炭鉱業,石炭や天然ガス,ウランを利用した発電,風力発電,太陽光発電,電気自動車やハイブリッド車,エネルギー利用による大気汚染などの記事を手がけてきた。現在はワシントンで活動しており,交通機関の安全性や技術面に関するトピックを扱っている。

原題名

Questions about a Hydrogen Economy(SCIENTIFIC AMERICAN May 2004)

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