日経サイエンス  2004年8月号

よみがえるフロイト

M.ソームズ(南アフリカ・ケープタウン大学)

 20世紀の前半,精神疾患や神経症の治療はフロイトの心理学理論に負うところが大きかった。人間を動かしている動機の大半は無意識的欲求だが,通常は抑圧という心の仕組みが働き,無秩序な行動や暴力的衝動を抑えている。この抑圧がうまく機能しなくなると心の病気が生じる,という考え方だ。しかし,脳の理解が進んで薬による治療が発達すると,フロイトの考え方は重視されなくなった。個々の患者の観察をもとに理論的推論を試みるやり方が,科学的とはとらえにくくなったからだ。

 

 ところが,時代遅れとなったはずのフロイトの心理学理論が,最近,脳の研究者の間で注目されはじめている。最新の神経科学の知見には,フロイトが描いた心のモデルと重なる部分が多いというのだ。ノーベル賞学者E.カンデルやV.S. ラマチャンドランらが目指す「精神医学の新しい知的枠組み」は,21世紀の神経科学と伝統ある精神分析学を融合させ,新たな「心のモデル」を打ち出すことができるのだろうか。

著者

Mark Solms

南アフリカ・ケープタウン大学神経心理学部長。聖バーソロミュー・王立ロンドン医科歯科大学神経外科名誉講師。ニューヨーク精神分析研究所アーノルド・プフェッファー神経精神分析センター長やロンドンにあるアンナ・フロイトセンターの神経心理学コンサルタントも務め,世界各国を飛び回っている。近日中に刊行予定の「TheComplete Neuroscientific Works of Sigmund Freud」(Karnac Books,4冊シリーズ)の編集・翻訳も手がけた。本記事の作成には,ウェールズ大学認知神経科学センターの上級講師ターンブル(OliverTurnbull)が協力した。

原題名

Freud Returns(SCIENTIFIC AMERICAN May 2004)

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