
金星の太陽面通過(日面通過)は地球から見て金星が太陽の真ん前を横切る現象で,243年間に4回だけ起きる珍しいイベントだ。それが来る6月8日,121年半ぶりに起こる。日本で見られる現象としては130年ぶりで,国内では午後から日没にかけて観察できる。天文学者もアマチュア観測家もその時を待ち望んでいる。太陽系外にある惑星の検出を目指す観測衛星の開発にも一役買いそうだ。
金星の太陽面通過には日食のような華々しさはない。金星は地球からの距離が月よりもずっと離れているため点にしか見えない。太陽面を背景に,太陽直径のわずか3%にすぎないちっぽけな黒い点が移動していく。
肉眼ではほとんど見えないので気づきにくく,天文学者も過去に5回しか観測していない。17世紀にドイツの天文学者ケプラー(Johannes Kepler)が1631年の現象を初めて予測したが,最初の観測例は1639年12月4日の現象で,英国の天文学者ホロックス(Jeremiah Horrocks)らによる。
18世紀と19世紀の観測では,金星の太陽面通過を手掛かりに地球から太陽までの距離が測定された。ハレー彗星で有名な天文学者のハレー(Edmond Halley)が,太陽面を横切る金星の軌跡が観測点によって異なって見える(視差が生じる)ことをもとに太陽までの距離を求める方法を提案していた。18世紀の観測には探検家のクック船長(Captain James Cook)らも加わり,19世紀には欧米の科学先進国が国の威信をかけて観測合戦を展開した。
現代では,系外惑星の検出との関連で,この現象が注目されている。地球から見て親星の前を惑星が横切ると,親星の光が少しだけ暗くなる。この現象をとらえる宇宙望遠鏡の計画が進んでおり,搭載する光学観測装置の性能を確かめるのに今回の金星日面通過はよい機会となる。
著者
Steven J. Dick
米航空宇宙局(NASA)の主席科学史研究者。1874年と1882年の金星日面通過で米国の観測を主導した歴史ある米海軍天文台で,25年にわたって天文学と科学史を研究した。著書に『TheBiological Universe, Life on Other Worlds』,また最近では『Sky and OceanJoined: The U.S. Naval Observatory, 1830-2000』(Cambridge UniversityPress, 2003)がある。後者は金星日面通過の歴史について一章を割いて詳述。国際天文学連合(IAU)の天文学史委員会の元委員長で,現在は金星日面通過ワーキンググループの代表を務めている。
原題名
The Transit of Venus(SCIENTIFIC AMERICAN May 2004)
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