
神経細胞(ニューロン)が緻密な脳のネットワークを作って,記憶や学習という脳の中心的な役割を果たしているのに対し,グリア細胞はこれらを補佐する脇役と考えられてきた。グリアの役割はニューロンに栄養を運んだり,軸索を絶縁して電気信号を送る手助けすることで,積極的に脳機能に影響を与えているとは考えられなかったからだ。
しかし,最近の研究から,グリア細胞の別の姿が見えてきた。グリア細胞はニューロンが置かれた状況をモニターしながら,グリア同士で情報をやりとりし,ニューロンのシナプス形成をコントロールしているらしい。記憶や学習という脳の高次機能は,実はグリア細胞によって支えられている可能性が高い。
グリア細胞は数の上ではニューロンをはるかに上回り,役割に応じてさまざまな種類がある。中枢神経系ではアストロサイト(栄養を運ぶ),オリゴデンドロサイト(ミエリン鞘を作る),ミクログリア(免疫を担う)が主なグリア細胞で,末梢神経系ではオリゴデンドロサイトに代わってシュワン細胞がミエリン鞘を作る。ニューロンが電気信号を使って情報を伝えるのに対し,グリア同士の情報のやりとりにはアデノシン三リン酸(ATP)や神経伝達物質が利用されている。興味深いことに,著者らの研究によると,同じ化学物質を利用して中枢神経と末梢神経で異なるメッセージを送ることができるらしい。
本格的なグリア研究はまだ始まったばかりだが,今後の成果によっては,ニューロン中心だったこれまでの脳のモデルが劇的に変わるかもしれない。
著者
R. Douglas Fields
米国立衛生研究所(NIH)の小児健康・ヒト成長研究所(NICHD)「神経系の発生および可塑性部門」の責任者。またメリーランド大学(カレッジパーク)の「神経科学および認知科学プログラム」の助教授も務める。学位取得後にエール大学とスタンフォード大学で研究活動を行う。余暇にはロッククライミングやスキューバーダイビングを楽しむほか,アコースティックギターやフォルクスワーゲンのエンジンの製作も手がける。
原題名
The Other Half of the Brain(SCIENTIFIC AMERICAN April 2004)
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