
宇宙が加速膨張しているのは「暗黒エネルギー」というえたいの知れない存在のためだと一般には考えられている。しかし実は,従来の物理法則が破れているのが原因かもしれない。自然を説明する究極の統一理論を目指す「ひも理論」の研究から,新たな重力の法則が姿を現した。
ひも理論によると,宇宙には私たちが認識している3次元以外に余剰次元が存在する。重力を媒介するグラビトンという粒子は,通常の物質と違って,この余剰次元へと逃れていくことができる。この重力の漏れ出し効果は,非常に大きな距離スケールで初めて顕著に表れる。その結果,時空が歪み,宇宙膨張が加速しているのだと考えられる。
この仮説の当否はいずれ観測によって明らかになるだろう。超新星の観測は直接的な検証法の1つだ。宇宙膨張が減速から加速に転じる状況は,グラビトン漏れ出し仮説と他の暗黒エネルギー仮説とでまったく違ってくる。超新星観測の精度がさらに高まれば,理論をふるいにかけられるだろう。
また,私はグラビトンの漏れ出しによって月の軌道がゆっくりと歳差運動することを計算で示した。月が地球の周りを1周するごとに,地球に最も近づく点はおよそ0.5mmずれる。この運動は極めて高精度のレーザー測距計を開発して観測すれば確認可能だ。
ひも理論を宇宙観測によって検証しようという機運が出てきたこと自体がエキサイティングなことだ。ひも理論は極微の世界を扱う理論だと考えられてきたが,巨大な世界についても重要な意味を持つ。
著者
Georgi Dvali
旧ソ連のグルジア共和国で育ち,トビリシにあるアンドロニカシュビリ物理大学でPh.D.を取得。イタリアのピサ大学とジュネーブ近郊にある欧州合同原子核研究機関(CERN),イタリアのトリエステにある国際理論物理学センターを経て,ニューヨーク大学の物理学部に加わった。山歩きによって重力を克服するのを楽しんでいるほか,この魅力あふれる力を利用してスキーで滑り降りるのもお手のものだ。
原題名
Out of The Darkness(SCIENTIFIC AMERICAN February 2004)
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