
天空から降り注いでくるマイクロ波は宇宙の起源を探る重要な手がかりだ。そこには約140億年前の宇宙の姿が“こだま”している。まずは,初期宇宙が奏でたシンフォニーに耳を傾けてみよう。
ビッグバン直後の宇宙は「インフレーション」と呼ぶ急膨張を続けた。これによって原始プラズマ中に音波が生じ,疎密の振動を繰り返した。宇宙が冷えて電気的に中性の原子ができるようになると,音波によって生じた密度ゆらぎのパターンが宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の中にそのまま固定されて残った。
背景放射の中に潜むこの音波信号を調べることで,宇宙の年齢や組成,幾何学的性質を推定できる。2001年に打ち上げられたウィルキンソン・マイクロ波背景放射非等方性探査衛星WMAP(ダブルマップ)による観測によって,背景放射の詳細な温度地図が作られた。その結果は,理論が予言する特徴的なパターンと一致し,現在の宇宙を構成する主成分が「暗黒エネルギー」と呼ばれる未知の存在であることがわかってきた。
宇宙を現象論的に記述するという意味では,現在の標準的な宇宙モデルは十分にうまく機能する。しかし,その現象の背後にひそむ物理をより深く理解するには,今後の観測結果を待たねばならない。そのときが来るまで,宇宙のシンフォニーはまだまだ聴衆を魅了し続けてやまないだろう。
著者
Wayne Hu / Martin White
フーはシカゴ大学の准教授(天文学および天体物理学)。1995年にカリフォルニア大学バークレー校で物理学のPh.D.を取得。暗黒エネルギーや暗黒物質,宇宙構造の形成などを研究している。ホワイトはカリフォルニア大学バークレー校の教授(天文学および物理学)。1992年にエール大学で物理学のPh.D.を取得。宇宙構造の起源を探求する一方で,天体物理学と基礎物理学の関係にも興味を持っている。
原題名
The Cosmic Symphony(SCIENTIFIC AMERICAN February 2004)
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