日経サイエンス  2004年5月号

ショック患者を救う新しい治療薬

D.W. ランドリー J. A. オリバー(コロンビア大学)

 心臓と血管・血液を使って酸素や栄養を体内のすみずみまで運ぶシステムを「循環系」と呼ぶ。循環系の働きは生存にとって極めて重要だ。心臓ポンプの不調や急激な血圧低下によって,脳などの生存に重要な臓器に血液が届かなくなると,意識を失ってショック状態に陥る。この状態が続き,取り返しのつかないほど臓器が損なわれてしまうと死を招く。

 

 ショックには主に(1)循環血液量減少性ショック,(2)心原性ショック,(3)血管拡張性ショックの3つがある。(1)は事故などによって大量に血液や体液が失われた場合,(2)は血栓や心臓弁の異常などで心臓がうまく機能しなくなった場合に生じる。最も一般的なのは(3)で,重い感染による敗血症が原因となることがほとんどだ。このため敗血症ショックと呼ばれることもある。

 

 血管拡張性ショックに陥ると,血管が収縮せずに血圧が低下してしまう。血圧を引き上げて血流を安定させる必要があるが,最近まで効果のある治療薬が見つからず,回復が難しい症状とされてきた。

 

 著者たちは,細動脈の平滑筋細胞の収縮と弛緩のメカニズムに着目した。さまざまな臨床研究や過去の事例の調査を通して,ホルモンの一種バソプレシンに細動脈の収縮を促して血圧を高める効果があることを突き止めた。バソプレシンを投与する方法は,現在ではショック治療のスタンダードになりつつある。

著者

Donald W. Landry / Juan A. Oliver

ともにコロンビア大学医学部に所属。ランドリーは医学部の助教授で腎臓病学部門の責任者。また実験治療学部門で人工酵素の研究を行っている。オリバーはスペイン出身でバルセロナ大学で医学の学位を得た。ハーバード大学の研究員を経て,現在はコロンビア大学臨床医学部門の助教授。

原題名

Insights into Shock(SCIENTIFIC AMERICAN February 2004)

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出血性ショックアンジオテンシンイオンチャンネル筋収縮電位依存性脱分極