日経サイエンス  2004年4月号

成長し続ける天の川銀河

B.P. ワッカー(ウィスコンシン大学) P. リヒター(ボン大学)

 地球は天の川銀河の奥深くに埋まっているため,銀河全体を見ることができない。他の銀河を見ると全体像はわかるが細かい部分を識別できない。つまり,天の川銀河の詳細を研究するのは容易だが,全体の構造は間接的に認識せざるをえない。

 

 このため,天の川銀河の構造や生いたちの全貌はなかなか解明できなかった。1950年代半ばまでには,現在私たちが天の川銀河として認識している姿(回転花火のような構造)が浮かび上がった。1960年代には,宇宙の歴史の初期に天の川銀河が形成され(最近では130億年前といわれる),それ以降ほとんど変化していないというのが有力な説となった。

 

 しかし次第に,天の川銀河は完成品ではなく今なお成長し続けている事実が明らかになってきた。現在では多くの銀河は小さな銀河が合体してできたものだと考えられており,天の川銀河ではこの合体過程の最終局面を観測できる。小さな伴銀河を引きちぎって星々を取り込み,一方,銀河間空間からは絶え間なくガス雲が流れ込んでいる。もはや,銀河の形成を過去形で語ることはできないのだ。

 

 天の川銀河に今もガスが集積し続けていることを示す1つの証拠が高速ガス雲(HVC)の存在だ。高速ガス雲は最大で太陽の1000万倍の質量と1万光年もの大きさを持つ謎の水素ガス雲で,天の川銀河の外縁を高速で移動している。高速ガス雲は41年も前に発見されていたが,この5年間でようやくその一部が銀河に降り注いでいるとわかった。高速ガス雲によって天の川銀河の全体像が見えてきた。

著者

Bart P. Wakker / Philipp Richter

主に紫外線と電波領域の電磁スペクトルを観測する2人は,1999年後半に高速ガス雲の調査チームに参加した。ワッカーは,オランダのフローニンゲン大学で高速ガス雲に関する博士論文を作成し,5年間イリノイ大学で過ごした後,1995年にウィスコンシン大学に籍を移した。リヒターはドイツのボン大学でPh.D.を取得。2002年にウィスコンシン大学を去り,イタリア・フィレンツェのアルチェトリ天体物理観測所に勤務した後,ボン大学に復帰した。

原題名

Our Growing, Breathing Galaxy(SCIENTIFIC AMERICAN January 2004)

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