日経サイエンス  2004年3月号

しなやかな翼で飛ぶ未来の飛行機

S.アシュレー(SCIENTIFIC AMERICAN編集部)

 ハイテクを駆使した未来の飛行機は鳥の飛翔に近づいていくだろう。翼にしなやかさをもたせ,状況に応じてその形を変えると,優れた飛行性能を実現できる。
 ライト兄弟は鳥が飛行中に翼の形を変えることに着目し,柔軟な翼の機体を開発した。滑車とロープを使って翼をたわませ,旋回運動を制御する仕組みだったが,その後は飛行速度がどんどん速くなったため,空力変形に耐えられる硬い翼が採用された。こうした剛性翼の場合,旋回に必要な揚力差は操縦補助翼を使って生み出す。
 しかし,空気力学が進歩し,新素材や電子機器が登場したことで,近年では柔軟な翼の利点を見直して高性能航空機に生かそうとする機運が出てきた。翼前縁部のフラップが生み出す力を利用して翼をねじることによって,飛行性能を高める方法が研究されている。
 代表例は米国海軍と米国空軍研究所,米航空宇宙局(NASA)ドライデン飛行研究センター,ボーイングのファントム・ワークスが共同で進めている能動空力弾性翼(AAW)プロジェクト。F/A-18A戦闘爆撃機ホーネットの翼を改造して剛性を弱め,翼にかかる力をセンサーで監視しつつ適切にねじって旋回性能を向上する。
 このほか,飛行条件に応じて翼を大きく変形させる未来型の可変形翼機の開発構想もいくつか進んでいる。いずれは旅客機も飛行中に翼の形を変え,燃料を節約したり目的地までの飛行時間を短縮することになるだろう。

原題名

Flying on Flexible Wings(SCIENTIFIC AMERICAN November 2003)

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