日経サイエンス  2004年3月号

グルジアの化石が明かす初期人類の旅

K.ウォン(SCIENTIFIC AMERICAN 編集部)

 1991年,グルジア共和国のドマニシ遺跡でホモ・エレクトスの頭骨が発掘された。アフリカ以外では最古の人類化石で,およそ160万年前のものと判定された。ついで1999年にも,最初の発掘場所から近い地点で2つの頭骨が発見された。この「ドマニシ原人」の発見によって,人類がアフリカを出たのは100万年前という従来の出アフリカ説が大きく塗り替えられようとしている。

 

 さらに,それまでに東アジアや西ヨーロッパで発見された最古の化石には地域的な特徴があるのに対し,ドマニシ原人の頭骨はアフリカの初期のホモ属の化石とそっくりであることがわかった。このことから,出アフリカの時期の大幅な変更を迫るとともに,最初の大移動は大きな脳をもった集団によってなされたという考え方も覆された。

 

 190万年前にアフリカでホモ・エレクトスが誕生してから間もなく,人類はアフリカを出たらしい。しかし,ドマニシ原人がこのあとどこへ向かったのかは謎だ。次に古い人骨はアジアから出土しており,100万年少し前のものだし,ヨーロッパでは80万年前の遺跡が最古とされている。ドマニシ原人は後のアジアのホモ・エレクトスの祖先かもしれないが,解剖学的な特徴を考えると,ユーラシアの限定された地域に一番乗りしたものの絶滅してしまった集団とも考えられる。現在のところ,古人類学者の見方はさまざまだ。ドマニシでは2002年,2003年にも相次いで化石が発掘されており,人類進化史の解明に大きく貢献することになるだろう。(編集部)

原題名

Stranger in a New Land(SCIENTIFIC AMERICAN November 2003)

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