日経サイエンス  2004年2月号

とける北極

M.スターム D. K. ペロビッチ(米陸軍寒冷地研究・技術研究所) M. C. セレーズ(コロラド大学)

 そのリストはあきれるほど長い。過去400年間の最高気温,海氷の減少,グリーンランド氷床の融解量の記録,前代未聞の速さで縮小しているアラスカの氷河,ロシアの河川の流量増加,10年につき数日の割合で長くなってきた北極圏の植物の生育期間,永久凍土層が解け始めたこと……。

 

 言い換えればこれらの観察結果は,北極圏で起きている大きな変化が,個々の現象だけではとうてい語り尽くせないということを示している。変化の全容が明らかになってきたのは,異なる分野の科学者たちがそれぞれの発見を互いに比較するようになったここ10年のことだ。現在はこれらの変化による影響を解明し,北極と地球全体の未来を予測しようと,多くの共同研究が行われている。

 

 その成果は地球全体にとって重要だ。というのも,北極圏が気候に及ぼす影響はけた外れに大きいからだ。貯水池の水位を調節する水路のように,極地方は地球の熱収支を調節している。太陽エネルギーは北極や南極よりも熱帯地方で多く吸収されるため,熱は風と海流によって極地へ移動する。その熱がどうなるかは,広範囲に広がる雪と氷によって左右される。

 

 反射率の高い氷や雪で覆われた面積が広いままならば,北極を直接照らす太陽光はほとんど宇宙へはね返される。そのため北極の温度は上がらず,低緯度地帯から移動してきた熱は海氷という断熱材に覆われた海中に蓄えられ,北極は熱を蓄えるすぐれた貯蔵庫となる。だが海氷が解けて縮小し始めると太陽光の反射は減少し,海の熱を大気に放出してしまうので,熱の貯蔵庫としての機能は低下する。その結果,地球全体の気候が温暖化する。

 

 だが,ここで起きている現象は非常に複雑だ。なかでも北極圏の気候を支配する複雑なフィードバックシステムは最大の問題だ。その中には変化を増幅して小さな影響を大きなものに変える正のフィードバックもあれば,ブレーキとして作用して変化を小さくする負のフィードバックもある。

著者

Matthew Sturm / Donald K. Perovich / Mark C. Serreze

3人は研究生活のほとんどを北極圏の雪と氷,気候の解明に費やしてきた。スタームは米陸軍寒冷地研究・技術研究所(アラスカ)に16年勤務し,その間にアラスカ北極圏の冬季調査を12回以上指揮している。最近の調査ではスノーモービルで1200kmを踏破した。ペロビッチは米国陸軍寒冷地研究・技術研究所(ニューハンプシャー)に所属している。主な研究テーマは海氷とアイス-アルベドフィードバックだ。ペロビッチは北極圏の流氷の中で凍結した砕氷船を氷上観測所とし,1年間漂流するSHEBAという研究計画の主任研究員を務めた。セレーズは1986年からコロラド大学ボールダー校にある米国立雪氷データセンターに勤務している。主な研究テーマは北極圏の気候の変化,および海氷と大気の相互作用。

原題名

Meltdown in the North(SCIENTIFIC AMERICAN October 2003)

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