
約20年前,天文学者は重力の法則と目に見える天体の配置から,遠い星雲の動きがまったく理屈に合わないと確信するようになった。だが次第に,彼らはこう結論せざるをえなくなっていった。宇宙は見かけほど空っぽではなく,暗くてよく見えない物質に支配されているに違いない,と。それが何でできていて,どのように働くのかはわからなかったが,及ぼす影響から科学者にはたしかにその存在を知ることができた。この暗黒物質を(最近では暗黒エネルギーも含めて)理解しようとする探求から,古い学説は修正され,新しい学説に置き換えられた。この努力のおかげで天体物理学や宇宙論は再び活性化した。
分子遺伝学でも,これとよく似た意外な新事実が,今,明らかにされつつある。2003年は二重らせんが発見されてから50年目の年にあたり,ヒトゲノムの塩基配列は解読が終わったと宣言された。今やDNAは実験室で簡単に扱える。しかし科学者たちは,遠く離れた種どうしのDNAを比較したり,生きた細胞内で染色体がいかに機能するかを詳しく見ていくうちに,現在の学説では説明できない結果が生じることに気づき始めた。
これまでは,遺伝子,つまりタンパク質のアミノ酸配列情報を記した(コードした)DNA部分こそが遺伝の唯一の原動力であり,これがすべての生命のもとになる完全な青写真なのだと考えられてきた。ところが今,この従来の考えと矛盾する新たな証拠が学術雑誌や学会を騒がせている。暗黒物質が星雲の運命に影響を与えるのと同様,バクテリアからヒトにいたるすべての生物種の発生や特徴的な形質を,ゲノムの暗黒部分がコントロールしている。ゲノムの中には,タンパク質をコードする遺伝子だけでなく,もっと多くの役者がいたのだ。
原題名
The Unseen Genome: Gems among the Junk(SCIENTIFIC AMERICAN November 2003)
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