日経サイエンス  2004年1月号

ガン治療にウイルスを活かす

D.M. ネテルベック(独エルランゲン・ニュルンベルク大学) D. T. キュリエル(アラバマ大学)

 さまざまな病気を引き起こすウイルスだが,うまく手なずけるとガンを効果的に攻撃する新しい治療法に道が開ける。腫瘍細胞だけで増殖するウイルスを利用する「ウイルス療法(virotherapy)」だ。その効果を見極める臨床試験が進んでいる。

 

 ウイルスをガン細胞だけに選択的に感染させて殺す。現在,ガン細胞には効率よく感染するが正常細胞には影響を与えないようなウイルス(特にアデノウイルス)を開発するため,さまざまな方法が試されている。

 

 ウイルス療法の標的指向性を高めるには,大きく分けて2つのアプローチがある。1つは「遺伝子導入の標的化」で,ガン細胞に特異的に感染(遺伝子導入)できるようにウイルスを改良する。もう1つは「転写活性の標的化」で,ウイルスが運ぶ遺伝子がガン細胞でのみ活性化される(転写される)ように改良する。

 

 従来の化学療法剤に対する感受性を高めるような遺伝子をガン細胞に選択的に導入するという考え方や,ある種の酵素を作り出す遺伝子をウイルスに組み込んでガン細胞で発現させ,その酵素によって無害な化学物質を強い毒性を発揮する化学療法剤に変えるといったやり方もある。

 

 ウイルスに蛍光物質や放射性核種の標識をつけて利用することも考えられている。これを投与するとガン細胞のところに集まってくる。将来は微小なガンの転移巣を検出する画像診断が可能になるだろう。

著者

Dirk M. Nettelbeck / David T. Curiel

2人はアラバマ大学バーミンガム校(UAB)の遺伝子治療センターで共同研究を始めた。キュリエルは同センターのヒト遺伝子治療部門長。Ph.D.と医師資格を持ち,UABの婦人科腫瘍研究プログラムのリーダーや,オランダ・アムステルダムにあるフリー大学の遺伝子治療学講座の教授でもある。ネテルベックは分子生物学者で,2000年から2003年までアラバマ大学で博士研究員として訓練を受け,現在はドイツのエルランゲン・ニュルンベルク大学の皮膚科学部門で悪性黒色腫のウイルス療法を研究するチームを率いている。2000年にドイツのマールブルクにあるフィリップス大学でPh.D.を取得,同時にノバルティス臨床研究財団の優秀学位修了者賞を受賞した。

原題名

Tumor-Busting Viruses(SCIENTIFIC AMERICAN October 2003)

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

受容体ベクタープロモーターメラノーマガン抑制遺伝子