日経サイエンス  2004年1月号

特集:ロボットから人間を読み解く

ヒューマノイド進化のシナリオ

土井利忠(ソニー)

 2003年は『鉄腕アトム』が誕生した年。さまざまな企業がヒューマノイド(人間型ロボット)を開発している。ただ,エンターテインメント用途など限定された場面で使うものはともかく,人間の代わりにさまざまな仕事をこなす万能ユーティリティーロボットが広く社会に受け入れられるには,心や知性の研究が不可欠だ。

 

 しかし,現状では厳しい。1997年にコンピューターが人間のチェスの世界チャンピオンを破ったとき,人工知能が大きな進展を見せたと一般の人たちは誤解した。実生活でぶつかるほとんどの問題は今のノイマン型コンピューターで処理するために必要な記号化ができず,ダイナミックに変化している。これでは,人工知能はまったく歯が立たない。

 

 そこで,ヒューマノイドを使って脳の秘密に迫る構成論的脳科学と人工知能の研究を融合させる必要がある。私は「インテリジェント・ダイナミクス」と呼んでいる。両分野の研究者の議論が活発化することにより,脳科学と人工知能の双方の研究が一段と飛躍することが期待される。

 

 それでも,ロボットに心を芽生えさせるのは難しい。特に無意識は脳内の個別の現象ではないという説が出ており,今の物理学では説明できない。よって,人間とまったく同じレベルの「意識・無意識」システムをロボットに実装することは不可能だ。この大前提に立ってロボットの意識の研究を進めなければならない。

 

 

再録:別冊日経サイエンス179「ロボットイノベーション」

著者

土井利忠(どい・としただ)

ソニー執行役員上席常務,同社ライフ・ダイナミクス研究所準備室長。ソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)会長を兼ねる。ロボット「AIBO」の生みの親として知られる。テーマは自由だが成果を厳しく問うという米国型の研究システムを取り入れたソニーCSLを設立し,北野宏明氏や茂木健一郎氏,高安秀樹氏らユニークな研究者に活躍の場を与えた。

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