
「なぜヒューマノイドを研究するのか」。欧米の研究者や一般の人からこんな質問を受けることが多い。こんなとき私は決まって次のように答える。
ヒューマノイドを通して人間を解明するのが目的だ。人間の身体構造は非常に複雑にできており,これだけの機構を機械システムで実現しようとするのは並大抵の技術では不可能だ。しかし,全体は無理でも部分的に人間と同じ構造や機能を実現できれば,ロボット工学の視点から人間を科学的に解明することになる。
これはロボット研究者のほとんどが抱いている思いだ。
そんな研究を続ける中で痛感するのが,人間の身体の巧妙さだ。例えば,自由度の数の多さがある。二足歩行できるヒューマノイドはひざが常に曲がった格好で歩く。人間がひざを曲げたままの姿勢でいるのはつらいし,ロボットでもエネルギー消費の観点からは非効率だ。それでもこんな姿勢をとる理由は,腰の位置を一定にして安定させるとともに,“特異姿勢”になるのを避けることにある。しかし,人間はそんなことは起こらない。余分な自由度が存在するからこそ多様で柔軟な動きができる。
人間は究極のロボットだ。何とかロボットを人間に近づけたいと研究してきた。ヒューマノイドを研究すればするほど人間の巧みさが見えてきて,目標がさらに遠ざかってしまったという思いもする。しかし困難だからこそ,このテーマは多くのロボット研究者を惹きつけているのも事実だ。
著者
高西淳夫(たかにし・あつお)
早稲田大学理工学部教授。日本のロボット研究の草分けである加藤一郎研究室を引き継ぎ,動歩行する二足歩行ロボットを世界で初めて開発したほか,上半身の動きでバランスをとる全身協調動的制御を考案した。高西氏が開発した技術はソニーのヒューマノイド「QRIO(クリオ)」などに応用されている。
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