日経サイエンス  2003年12月号

特集:脳力増強の科学

脳の改良は許されるか

倫理

A. L. カプラン(ペンシルベニア大学)

 遺伝子の解析や操作に関する技術革命はさまざまな倫理上の議論を巻き起こした。脳科学についても同様の議論が予想される。
 脳の疾患を改善するのは,どこから見ても正しい行為だ。それでも,遺伝子診断や遺伝子治療と同様の深刻な問題を引き起こす。危険を伴う処置を特定の個人に対して行うことが正当かどうか,だれがどういった根拠に基づいて決定するのかという問題だ。さらに脳をより良くするために操作し,薬や埋め込み型電子回路のおかげで脳の力を高めることには異論もある。
 私は脳を強化して最適化する試みがそれほど悪いことだとは思わない。
 ニューロンを微調整して脳の力を高めるのは人間の平等を脅かす,という反論があるだろう。ある人は改良された脳を持ち,ある人は持てないというのは不公平だから,脳の強化は倫理に反すると考える人も多い。しかし,解決策は脳改良技術を利用する公平な機会を提供することであって,能力向上という考えを放棄することではない。
 脳の強化を許すとだれもがそうせざるを得なくなるから,脳の強化は誤りなのだと主張する人たちがいる。しかし,この問題への答えは改良処置の禁止ではない。強化が他からの命令ではなく,自らの選択によってなされるよう保障することが答えとなる。
 脳に関する知識が近く革命的に進歩することを考えると,多くの人々が脳の改良を正しい行為だと感じるようになるはずであり,それをすべての人が公平に利用できるよう,法的・社会的な仕組みを打ち立てることが重要になるだろう。

著者

Arthur L. Caplan

ペンシルベニア大学のエマニュエル・アンド・ロバート・ハート生命倫理学教授で,生命倫理学センターの所長。1994年に同大学に移る前は,ミネソタ大学やピッツバーグ大学,コロンビア大学で教え,ニューヨーク州ギャリソンにあるヘースティングスセンターの副所長を務めた。『WhoOwns Life?』(Prometheus,2002年)など25冊の編著書がある。

原題名

Is Better Best?(SCIENTIFIC AMERICAN September 2003)

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