日経サイエンス  2003年12月号

特集:脳力増強の科学

脳を電磁刺激する

活性化

M. S. ジョージ(サウスカロライナ医科大学)

 神経科学の分野では,脳内の神経細胞を活性化させる方法としてさまざまな電磁気刺激が使われている。頭皮に電極を直接取り付ける電気けいれん療法(ECT)が最も有名だが,この方法はいくつかの問題を抱えている。
 これに対し,脳の特定領域にパルス状の磁場をかけて電気刺激を引き起こす実験が過去10年間にわたって行われてきた。経頭蓋磁気刺激(TMS)と呼ばれ,危険が少なく被験者の痛みもない。刺激領域を絞り込めるので,さまざまな応用が考えられる。うつ病など神経生理疾患の治療法として期待されているほか,薬を使わずに疲労を回復できる可能性がある。学習効果を高めることもできるかもしれない。
 TMSを利用して脳の回路を組み替えて,学習能力や記憶力を変えられるとしたら,ほとんど無限の可能性が開けるだろう。脳梗塞の患者にTMSを施し,脳のうち無傷で残った部分を“教育”して,障害を起こした部分が受け持っていた機能を代行させることができるかもしれない。あるいは過剰に活動している回路を鎮めて,てんかんの発作を抑えられる可能性もある。
 一方では課題もある。どのニューロンが刺激され,その刺激によってどんな神経生物学的現象が起きているのか,正確にはわかっていない。また,電磁波の周波数や強度,加え方などを変えた場合にどんな違いが生じるのかを見極めたうえで,最適な実施方法を決めていく必要もある。

著者

Mark S. George

精神科と神経科の開業医であり,神経科学の研究者でもある。最初,ノースカロライナ州にあるデビッドソン大学で哲学の学生として脳と心の関係について学んだ。その後,医学部とサウスカロライナ医科大学の両方に籍を置き,人間の脳に対して強い関心を持ち続けた。ロンドン大学神経学研究所と米国立衛生研究所で特別研究員を務めながら脳の画像化と脳刺激の新技術を研究・開発。8年前にサウスカロライナ医科大学に戻り,脳の画像化と刺激に関する研究を取り仕切っている。

原題名

Stimulating the Brain(SCIENTIFIC AMERICAN September 2003)

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