日経サイエンス  2003年12月号

特集:脳力増強の科学

頭の良くなる薬をつくる

神経薬理

S.S. ホール(科学ライター)

 記憶を増強し,集中力を高める薬が注目されている。米国のある雑誌はこのような薬を「脳のバイアグラ」と表現したそうだ。だが,こうした薬に期待するのは老化による記憶の衰えを心配する高齢者だけではない。睡眠障害の治療薬モダフィニルや,子供の注意欠陥・多動性障害(ADHD)の薬として知られるリタリンは,活動的で健康な若い世代の一部で熱狂的に支持されている。睡眠時間を削って仕事や遊びに熱中したいときや,試験対策の猛勉強に役立つというのだ。
 いわゆるスマートドラッグは,脳内の特定の神経細胞の伝達経路を活性化させる。そのため,健康な人が使用した場合に本当に効果があるのか,害を及ぼさないのかはわかっていない。
 しかし,将来の需要に向けて,製薬会社やバイオベンチャーの動きは活発化している。米国のヘリコーン・セラピューティックス社もその1つだ。同社が研究を進めるCREB促進薬はショウジョウバエやマウスの長期記憶を飛躍的に強化することが確かめられている。
 人が使える安全で効果の高いスマートドラッグが開発されるまでにはまだ時間がかかりそうだが,こうした薬の登場が人間の生き方や社会を変える可能性は大いにあり,将来を危惧する生命倫理学者もいる。(編集部)

著者

Stephen S. Hall

ニューヨーク市在住のライター。4冊の科学の現代史を記録する書物を書いている。その中には最近出版された幹細胞とクローニング研究の本「Merchantsof Immortality (Houghton Mifflin)」がある。

原題名

The Quest for a Smart Pill(SCIENTIFIC AMERICAN September 2003)

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