日経サイエンス  2003年12月号

「浮き出る錯視」 不思議な感覚にあなたを誘う

石毛宏明

 今さら言うまでもなく,人が物を立体的に見ることができるのは,左右の目で両眼視をしているからだ。右目と左目の間には約6cmほどの間隔があり,左右で同じ物を見ていても,異なった角度で網膜に取り込んでいる。脳内でこのずれのある画像を合成し,奥行きや物の厚みを認識している。

 

 立体的に見える図や映像(ステレオグラム)は,専用の眼鏡やビュアーを使うものや,裸眼で見るタイプなどがある(このほか,ホログラムやレンチキュラーレンズを使うものがあるが,ここでは割愛する)。

 

 ビュアーを使う方法では,赤と青のセロファンや偏光フィルターを使って,左右の目に別な画像が入るようにしている。視差の分だけずらした画像を見ているのだ。

 

 裸眼での方法では,1つの画像を取り込む角度を見る人が意識的に変化させる。これにはちょっとしたコツが必要で,そのコツをのみ込むのに練習がいるが,それだけに立体的に見えたときの喜びもひとしおだ。

 

 裸眼での見方には2通りの方法がある。実際の画像よりも遠くに目の焦点を合わせる「平行法」と逆に手前に合わせる「交差法」だ。前者はぼんやりと遠くを見る目つきで,後者はいわゆる寄り目でぐっと力んだ感じで見る。どちらも,左右の目は画像上の別々の点を見ていることになるが,平行法と交差法とでは2点の位置関係が左右逆になる。平行法では左の目で左の点を見るが,交差法では左目で右の点を見る。このため,立体視ができたとき,平行法と交差法とでは凹凸が逆になる(下の図参照)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左右それぞれの目で見ている2点が重なると,脳は左右の視線が交わる位置にその点があると認識する。だから,2点間の距離を調節することで,立体視をしたときの奥行きを調節できる。近年流行し,今回の付録にもつけたステレオグラムでは,立体視をするとそれまで見えなかった像が浮き出てくる。(本文より抜粋)

著者

石毛宏明(いしげ・ひろあき) / 高瀬修一(たかせ・しゅういち)

石毛はデザイン事務所「あとりえ・ひろ」を設立し,3Dデザインやゲームソフトの制作をしている。高瀬は盛栄堂印刷所勤務。石毛の作品を中心とした3Dなど提案型の営業活動をしている。

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