日経サイエンス  2003年8月号

探査機がつかんだ火星の姿

A.L. オールビー(カリフォルニア工科大学)

 1960年代以降,30を超える火星探査機が打ち上げられてきた。その結果,基本的には地球と同じ過程で形づくられたと信じられてきた火星の姿がまったく違うことが明らかになった。特にマーズ・グローバル・サーベイヤーやマーズオデッセイ,マーズパスファインダーといったここ5年間に稼働した探査機の活躍によって,過去の探査データを上回る量の情報が集まった。その結果,火星は地球とまったく異なり,これまで考えられていたよりもずっと複雑だとわかった。

 

 現在の火星はさまざまな点で地球とは異なっている。まず,火星は砂塵に覆われている。地球の表土の大部分は地下の岩盤が化学的風化作用を受けてできたものだ。次に,風が猛烈なことだ。地球の地形が主に水の作用によって形作られたのに対し,火星の場合は風の作用が中心だ。さらに,火星の天候や気候周期が驚くほど多様なことだ。これは,降雨や海洋が存在しないことや極地方にある二酸化炭素の霜が凝結・昇華するため大気圧が季節によって約25%も変化すること,浮遊する砂塵や氷の粒子の影響を受けて大気の熱特性が大きく変動することなどが考えられる。そして水の挙動だ。赤道付近を除く大部分で地下に氷が存在するが,地表の鉱物学的特徴は水のない地域と同じだ。

 

 残された最大の謎が火星がかつて温暖で湿潤だったのかということだ。現在の火星の地形を眺めると,かつて大量の水が液体として存在していたことを示す例がいくつもある。まず南半球と違って,北半球は広大な平原が広がっており,クレーターは少ないことから,低地の部分はかなり長い間,湖の底だったと考えられる。また,南半球の高地の端には水に浸食されたとしか思えないような地形が見られる。有名なマリネリス峡谷は破局的な流れが一挙に押し寄せて地表を削り取ったと考えられる。

 

 米航空宇宙局(NASA)は6月10日にマーズ・エクスプロレーション・ローバーの1機目を打ち上げた。6月25日から7月上旬にかけて2号機目を打ち上げる予定だ。これに先立ち,欧州宇宙機関(ESA)が着陸機ビーグル2号機を積んだマーズエクスプレスを6月2日に打ち上げた。いずれも来年の1月に火星に到達する予定だ。その1カ月前には,宇宙科学研究所の探査機「のぞみ」が到着する。これらの探査機の結果によって,初期の火星に雨が降っていたのかという問題を解く手がかりがみつかるかもしれない。朗報を期待して待とう。

著者

Arden L. Albee

オールビーはマーズ・グローバル・サーベイヤーのプロジェクトの科学者チームを率いている。不運な結果に終わったマーズオブザーバーでも同じ任務に就いた。サーベイヤーはオブザーバーの探査を一部引き継いでいる。カリフォルニア工科大学の地質学・惑星科学の名誉教授でもあるオールビーは,1978年から1984年までNASAのジェット推進研究所の主任研究員を務めた。

原題名

The Unearthly Landscapes of Mars(SCIENTIFIC AMERICAN June 2003)

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