
この世には「別の宇宙」がたくさん存在し,あなたとまったく同じ人生を歩んでいる「もう1人のあなた」がどこかにいる。そんなバカな?
いやいや,宇宙に関する最新の観測結果は「並行宇宙」の存在を示唆している。単なる荒唐無稽な話ではない。
観測によると,空間は無限に広がっているようだ。とすると,無限の空間のどこかでは,いかにありそうにない事柄であっても,可能性のあるものなら現実となる。私たちの望遠鏡では観測できない外側には,私たちの宇宙とそっくりな別の宇宙がある。これが最も単純な並行宇宙の例だ。こうした並行宇宙の集団が,もっと大きな「マルチバース(多宇宙)」を形作る。
ある種のインフレーション理論によると,そうしたマルチバースの「泡」がたくさん集まった「レベル2マルチバース」の存在も考えられる。このマルチバースでは,物理定数や素粒子の種類が「泡」ごとに異なってくる。
レベル3のマルチバースは量子力学の「多世界解釈」から生じるマルチ世界だ。ランダムな量子過程によって宇宙が複数のコピーに分岐し,そのいずれもが現実になりうると考える。
さらにレベル4マルチバースの考え方では,あらゆる数理的構造に対応した宇宙が存在すると考える。このマルチバースでは,物理法則までが宇宙によって異なるようになる。
並行宇宙の存在は奇妙に思えるかもしれないが,実はこれほどすっきりとした明快な考え方はない。時間の本質や,私たちが物理的世界をなぜ理解可能なのかといった根本的な問題に迫る手がかりにもなるだろう。
著者
Max Tegmark
テグマークは学生時代,コンピューターゲーム「テトリス」の4次元版を開発した。別の宇宙では,彼はソフトウエア開発で高給を稼いでいるに違いない。しかし,私たちの宇宙では,彼は結局のところペンシルベニア大学の物理学と天文学の教授となった。宇宙マイクロ波背景放射と銀河団形成の分析が専門。彼の仕事の多くは並行宇宙の概念と関連している。無限空間やインフレーションを示唆する観測結果の評価,量子デコヒーレンスに関する考察のほか,マイクロ波背景放射のゆらぎの大きさや時空の次元,基本的物理法則が場所によって変化する可能性などを研究している。
原題名
Parallel Universes(SCIENTIFIC AMERICAN May 2003)
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