日経サイエンス  2003年6月号

特集:人体をつくる 再生医療の挑戦

細胞から臓器をつくる

組織工学

岡野光夫 大和雅之(東京女子医科大学先端生命医科学研究所)

 細胞から組織や臓器を作る組織工学という学問領域は,1980年代に米国のランガーとバカンティによって提唱された。第1世代の組織工学は皮膚や軟骨など比較的単純な組織を作り出すことに成功した。しかし,より複雑な構造と機能をもつ臓器を再現するには,従来の方法では限界がある。

 

 著者らのグループは,細胞培養の際に細胞同士の接着や細胞外マトリックスを壊さずに無傷のまま回収する方法を開発した。培養皿の表面を温度応答性高分子で覆い,この上に細胞をまいて培養する。これを低温処理すると,増殖した細胞を1枚のシートとして取り出せる。この手法を活用すれば,細胞シートを何層も重ねたり,異なる細胞シートを共培養して,さまざまな組織を再現することが可能だ。

 

 すでに歯周組織や膀胱組織の細胞シート移植に成功するなど,次々と新しい治療法の開発が進んでいる。また,積層化した心筋細胞シートでは心臓の組織と同様の拍動が確認され,心筋梗塞の治療への応用が期待されている。

岡野光夫(おかの・てるお)
東京女子医科大学先端生命医科学研究所所長,教授。早稲田大学大学院高分子化学博士課程修了。1987年より東京女子医大医用工学研究施設助教授。1994年より米ユタ大学教授(併任)。2001年より現職。物質・材料研究機構ディレクターを併任。

大和雅之(やまと・まさゆき)
東京女子医科大学先端生命医科学研究所助教授。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。日本学術振興会博士研究員を経て,1998年より東京女子医大医用工学研究施設助手。2003年より現職。

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