日経サイエンス  2003年6月号

特集:人体をつくる 再生医療の挑戦

血管を蘇らせる

体性幹細胞を使って

浅原孝之(神戸先端医療センター)

 ES細胞(胚性幹細胞)の発見によって,1つの細胞からさまざまな臓器が作られる仕組みが探求できるようになり,再生医療への期待が高まっている。しかし,胎児から採取するES細胞には倫理的問題という壁がある上,免疫系の問題も克服しなければならない。
 こうした問題を解決するのが成体幹細胞だ。成体幹細胞は大人の体にありながらES細胞に近い能力をもった幹細胞で,さまざまな組織の細胞に分化できる。普段は眠っているが,けがや重い病気にかかったときに目覚めて活動する。
 血管をつくる前駆細胞はこのような性質をもつ成体幹細胞から分化した細胞として,成体の血液中で見つかった。これによって,大人の体にも胎児と同じような血管発生の仕組みがあることが解明され,従来の血管形成の考え方を大きく覆した。
 血管を作る血管内皮前駆細胞が発見されたことで,この細胞を利用したさまざまな治療のアイデアが試されている。著者らのグループは,カテーテルを使って心臓の虚血部位に血管内皮前駆細胞を送り込む治療法を開発し,臨床応用への最終段階に入った。あらゆる組織や臓器に不可欠な血管の幹細胞がコントロールできるようになれば,再生医療の基盤技術となるに違いない。

著者

浅原孝之(あさはら・たかゆき)

神戸先端医療センター再生医療研究部長(理化学研究所提携チームリーダー),東海大学再生医療科学教授。東京医科大学卒業,1991年に同大学第二内科助手。1993年よりボストンのタフツ医科大学セント・エリザベス医療センターに留学。2002年より現職。

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

体性幹細胞細胞採取法毛細血管血管遊走管腔形成