日経サイエンス  2003年6月号

いま注目の研究者が語る「私の修行時代」

自律せよ それが独創を生む

トロンでユビキタス社会をリードする

坂村健(東京大学教授)

 中学生のころ,東京・神保町の書店街や秋葉原の電気街に通い,雑誌を読んでは部品を買い込んでいました。最初はだれかに教えてもらっても,そのうち自分で新しい世界を開拓する能力が必要です。その点,神保町や秋葉原のような“知識のプール”が身近にあったのは私には幸いでした。

 

 コンピューター研究者へ進むのを決定づけたのは,ロバート・バートンとの出会いです。IBMとはまったく違うアーキテクチャーのコンピューターを開発した人で,彼との交流によって,ゼロから新しいものを作るときは1人の頭脳から生まれるものだということを確信しました。

 

 座右の銘は「自律」です。自分で判断して確信をもって開発に臨む。周囲に左右されるようでは,独創なんてありえないからです。私は80年代に「これからはどこでもコンピューターの時代になる」と確信し,トロンを設計し,普及に努めてきました。今はやりのモバイルやユビキタスを先駆けたと自負しています。

 

 若いときには,面白いと思ったことを深く追求しなければなりません。教養は後からでも身につきます。何も興味がないのは不幸です。若い人はのめり込む対象を見つけて欲しい。(本文より抜粋)

著者

坂村健(さかむら・けん)

東京大学大学院情報学環教授。多様なコンピューターで利用できる組み込み型OS(基本ソフト)の「TRON(トロン)」を開発。すべてのモノがコンピューターでつながる「電脳社会」を提唱し,1984年にトロンプロジェクトを発足させる。トロンは携帯電話や家電,自動車に組み込まれ,世界で最も使われるOSとなっている。