日経サイエンス  2003年6月号

いま注目の研究者が語る「私の修行時代」

形にしてこそ夢は実現する

踊るロボット「SDR」を開発した

黒木義博(ソニー リサーチディレクター)

 「人間ってよくできているなぁ」。「ロボット工学の父」と呼ばれる早稲田大学の加藤一郎研究室で研究していたころ,常にこう驚いていいました。そのとき義手の研究をする中で,人間の腕や手がどう動くのか調べるのが楽しくてしょうがなかった。だれから指示されたわけでもありませんが,医学書を読んだり,自らを実験台にして筋肉の構造や動く仕組みを調べました。また旋盤を操作して部品を作り,それらを組み立てました。このときの経験によって,研究者・技術者としての基礎が身についたと思います。手を動かすことは大切です。

 

 ソニーに入社してから,産業用ロボットの開発に携わっていましたが,1990年に全社的な研究開発戦略を考える部署へ異動になります。いろんな事業部や開発部門の研究者・技術者とやりとりするうちに,エンターテインロボットを開発しようと考えつきます。まったく役に立たないけど,一緒にいて楽しいものを目指しました。

 

 なかなかゴーサインは出ませんでしたが,96年に社内公募があり,それに応募して社内ベンチャーを立ち上げました。体長30~40cm,人間のように手足を動かせ,ボールを蹴るのは当たり前──が目標です。それから7年,音声認識や学習機能などソフトウエアの面ではまだまだですが,ハード的にはかなりの水準にきました。

 

 最先端を追うのは楽しいですが,既存の技術をうまく統合して新しいものにまとめる能力は重要です。また,夢を実現するには形にしなければなりません。企画書や設計図に書き表すことで,必要な技術や実現のための戦略がみえてきます。

著者

黒木義博(くろき・よしひろ)

ソニー インテリジェント・ダイナミクス研究所リサーチディレクター。2001年に,身体を自由に動かせるヒューマノイドロボットSDRを発表した。このロボットはパラパラを上手に踊り,ホンダのアシモとともにヒューマノイドの先駆者的存在。最新型のSDR-4XIIは,障害物につまづいて転んでも自分で起きあがる機能がある。