日経サイエンス  2003年6月号

デジタル技術で崩れる?ハリウッドの一人勝ち

H.B. ファイゲンバウム(ジョージワシントン大学)

 大衆文化はいまや米国の最大の輸出品目だ。国外の消費者に販売する音楽,本,映画,テレビ番組,コンピューターソフトは年間600億ドルにのぼる。これは違法コピーや海賊版などは含まない数字だ。欧州やカナダでも,テレビやCD,新聞の娯楽サイトなど,米国文化はあらゆるところで目にすることができる。 この20~30年というもの,世界各国の政府はこうした傾向を警戒してきた。独自の言語や習慣が失われるのを恐れて,フランスや韓国,オーストラリア,カナダなどの国々は自国の音楽や本,雑誌,映画,テレビ番組の制作者を保護する政策をとってきた。

 

 なかでも外国製の映画やテレビ番組の割当時間を制限するクォータ制は,自国の文化的多様性を保護するうえで効果的だった。だが映画やテレビを配信する最新技術のおかげで,こうした国による垣根は崩れつつあるようだ。すでに欧州やアジアでは衛星放送を受信すれば制限なく番組を選べるが,番組の主流は米国製だ。視聴者が番組ライブラリーから好きな番組や映画を選んで視聴できるビデオオンデマンドへの期待が高いが,これが導入されればクォータ制はさらなる打撃をこうむるだろう。また世界中の人がインターネットで映画やテレビを見るようになれば,クォータ制はまったく無意味になる。

 

 こうした新しい技術により,米国の大衆文化はさらに世界中に勢力を拡大するのだろうか。答えはそう単純ではない。デジタルビデオの出現により,映画やテレビ番組をずっと低コストで制作できるようになった。欧州やアジアの予算の厳しい制作会社でも,ハリウッドの会社と対等に競争できるようになったのだ。また,たとえ米国の映画や番組が増えたとしても,それ以外の文化が消滅の危険にさらされるとは限らない。映画やテレビが文化へ与える影響は過大評価されているようだ。

著者

Harvey B. Feigenbaum

ジョージワシントン大学教授(政治学),同大学エリオット校国際関係学部副学部長。先進工業国,特に西欧での技術と政治,経済の相互関係について研究している。1981年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で政治学のPh.D.を取得。最新刊にShrinking the State: The Political Underpinningsof Privatization(with Jeffrey Henig and Chris Hamnett, CambridgeUniversity Press, 1998)がある。米連邦通信委員会のファース(David Furth),およびオーストラリアのSBSテレビジョンネットワークのスートヒル(DavidSoothill)の協力に感謝している。この記事で紹介した研究の一部はジョージワシントン大学グローバリゼーション研究センターから資金を得ている。

原題名

Digital Entertainment Jumps the Border(SCIENTIFIC AMERICAN March 2003)

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