
1995年夏のある暑い日のこと。8人の中学生が近くの小さな池で簡単な生態調査をしようとした。ミネソタ州ヘンダーソンにあるその池でヒョウガエルを集め始めたところ,驚いたことに,後肢の数が5本以上もあるカエルが次々と見つかった。肢が気味悪いほどねじ曲がっているものもあった。その日,彼らが捕まえた22匹のカエルのうち,半数はひどい奇形だった。公害防止局員が追加調査をしたところ,さらに不気味な奇形が見つかった。後肢がまったくなかったり,ただの痕跡になっているようなカエルが同じ池から相次いで発見された。胃から肢が1~2本生えているカエルや,数は少ないが目のないカエルさえ見つかった。
この話は一躍全米の注目を集めるとともに,さまざまな疑問の声が湧き起こった。この現象はその池に限って発生しているものなのか,それとも広い範囲で起こっているのか。何が奇形の原因となったのか。
全国各地の研究者が両生類の地域個体群の調査を始めると,やがてこの不気味な現象がミネソタ州だけにとどまらないことがはっきりした。1995年以来,カエルやサンショウウオなど60種以上の両生類について奇形個体が見つかり,発見地も46の州に及んだ。一部の地域個体群では,全個体の80%に異常が見られている。また,この現象が米国以外にも広がっているという報道もある。驚くべき数の奇形の両生類がアジアやヨーロッパ,オーストラリアでも発見されている。世界で最も頻繁に見られる奇形は肢の数が多すぎる(過剰肢)か,足りないかである。
これらの異常は,両生類の正常な発生過程で生じるものでは決してない。1900年代前半までさかのぼった研究では,突然変異や損傷,発生上での異常などによって,どんな集団においても一部の個体には奇形が生じている。しかし,通常,健康的な集団では,肢や指の欠損がある個体はせいぜい全体の5%にすぎず,肢の数が余分にあるような極端な奇形はきわめて珍しい。そのうえ,私たちの1人ジョンソンが集めた過去の記録と最近の野外調査によれば,奇形が最近になって広がりだしたことがわかっている。
過去8年間,この現象の原因として紫外線照射の増加や化学物質による水質汚染,寄生虫の伝染が次々に候補に挙げられてきた。そう驚くことではないが,新たな報告が出されるたびにメディアはその目新しい見方を大げさに宣伝し,結果的に事態の構造をわかりにくくしてきた。おそらく,これら3つの要因は,それぞれ特定の形態異常の原因であり,その影響の程度はさまざまだろう。そして時には3つの要因が共同して作用することがわかってきた。さらに,すべての要因が少なくとも部分的には生活環境の破壊など人間活動に起因している。
著者
Andrew R. Blaustein / Pieter T.J. Johnson
2人は1998年よりチームを組んで両生類の奇形をもたらす原因を探し続けている。ブラウシュタインは1978年にカリフォルニア大学サンタバーバラ校でPh.D.を取得し,現在はオレゴン州立大学動物学部の教授。行動生態学者,個体群生態学者として,この数年は世界中で起こっている両生類の減少を,特に紫外線照射や環境汚染,病原体,外来移入種の観点から調べている。ジョンソンはウィスコンシン大学マディソン校陸水学センターで博士論文執筆中の学生で,湖沼などで突然流行する病気に人間活動がどうかかわっているかを研究している。
原題名
Explaining Frog Deformities(SCIENTIFIC AMERICAN February 2003)
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