
世界各地で行われたさまざまな疫学調査によって,お酒を少量ないし適度に飲むと心筋梗塞などの虚血性心疾患で死亡するリスクが1/3に減少することがわかった。心臓病のリスクがあって,かつ飲酒に伴う悪影響の心配がない人たちの場合,医師と相談のうえ,健康のために適度のお酒を飲むのがよいだろう。
アルコールが心臓病を防ぐのは,血中コレステロール値をよい方向に調整するからだ。善玉コレステロールHDLの濃度が上がる結果,悪玉コレステロールLDLを肝臓に導いて分解するので,血管壁に沈着するコレステロールが減り,動脈硬化が起きにくくなる。
また,アルコールが存在すると血小板の粘着性が下がり,凝集しにくくなる。このため血栓ができにくくなるようだ。このほかにもいくつかのメカニズムが考えられる。
ただし,飲み過ぎは明らかに危険だ。肝硬変や膵臓炎,ある種のガン,神経変性疾患,胎児性アルコール症候群,さまざまな事故の原因となる。飲酒のプラスとマイナスは,その人その人によって個別に評価する必要がある。著者は心臓外科医と協力して,どのくらいのアルコールを飲むのがいいかを判断するチャート図を開発した。
著者
Arthur L. Klatsky
カリフォルニア州オークランドにあるカイザー・パーマネント・メディカルセンターで,心臓病に関する上席コンサルタントを務めている。ハーバード大学医学部を卒業後,1968年から90年まで同センターの心臓病集中治療病棟の責任者を務め,78年から94年までは心臓病部門全体を率いた。77年から,アルコール飲料と健康に関する一連の研究を主導してきた。74年にAnnalsof Internal Medicine誌に発表した論文はアルコール飲料が心臓病に好影響を与えることを示した初の疫学的報告となり,95年に米国立アルコール乱用・依存症研究所がアルコール研究に関して選んだ16の独創的論文の1つに選ばれた。フルマラソンを完走した経験が6回。90年にはキリマンジャロに登った。
原題名
Drink to Your Health?(SCIENTIFIC AMERICAN Febrary 2003)
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