日経サイエンス  2003年3月号

美食が人類を進化させた

W.R. レナード(ノースウエスタン大学)

 私たち人類は風変わりな霊長類だ。巨大な脳を支えながら常に二本足で歩き,熱帯から極地まで地球の隅々に生息地を広げている。人類は,一般的な霊長類から根本的に変わってしまった。こうした違いはどのように生じたのか。人類学者や生物学者は長年にわたりさまざまな仮説を提唱してきた。

 

 最近では,人類に固有の多くの特徴には共通の原因があるという証拠がたくさん集まってきている。これらの特徴は食物の質と獲得効率を向上させようとする自然選択の結果にほかならない。長期間にわたる食習慣の変化は,人類の祖先に多大の影響を与えたことだろう。進化史的な意味では,何を食べてきたかがきわめて重要なのだ。

 

 私たちと他の霊長類との本質的な違いも,いま食べている食物の違いを反映したものだ。現在,世界中にあふれている人類は,従兄弟にあたる類人猿よりも高カロリーで栄養豊富な食事をとっている。では,いつ,どのようにして,私たちの食習慣が他の霊長類と違ってきたのだろう?そして,現代人の食生活は祖先たちの食生活からどれほど遠ざかったのだろう?

 

 
再録:別冊日経サイエンス237「食と健康」

著者

William R. Leonard

ノースウエスタン大学の人類学教授。ニューヨークのジェイムズタウンで生まれ,1987年にミシガン大学アナーバー校で生物人類学のPh.D.を取得。現代および先史時代集団の栄養とエネルギーに関する80編以上の論文を発表。エクアドルやボリビア,ペルーの先住農耕民や中南部シベリアで伝統的な暮らしを続ける放牧民の研究もしている。

原題名

Food for Thought(SCIENTIFIC AMERICAN December 2002)

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