日経サイエンス  2003年2月号

南アフリカの砂漠にマントファスマを求めて

東城幸治(農業生物資源研究所/日本学術振興会) 町田龍一郎(筑波大学)

 2002年4月下旬,「昆虫に新目誕生」「88年ぶりの新目」。新聞各紙にこんな文字が躍った。昆虫の系統分類学に携わる私たちが,この記事に大いに興奮したことは言うまでもない。アディス(JoachimAdis)らが「88年ぶりの大発見 砂漠に生きていた新昆虫」で書いているように「今後もたくさんの新種の昆虫が発見されるだろうが,どんな種が見つかろうと,既存のグループ(目)にあてはまるに違いない」と私たちも考えていたからだ。

 

 この新目発見の反響は大きく,昆虫学を専門とする私たちのまわりはもちろんのこと,あちこちでマントファスマ目が話題にのぼっていた。そんなころ,マントファスマ目の記載者の1人であるドイツのドレスデン博物館のクラス(Klaus-DieterKlass)から町田のもとに連絡が入った。「この昆虫に関する研究プロジェクトに加わってほしい」というのだ。系統進化学的な考察をする上で,私たちの比較発生学的なアプローチがぜひとも必要とのことだった。

 

 Science誌での公表にともない,クラスのもとには,アフリカ大陸南部の砂漠地域には今なおこのマントファスマが生息しているとの情報が集まりつつあった。かくして,この多くの謎を秘めた昆虫に関する研究プロジェクトが計画され,さまざまな国からいろいろな分野の研究者が加わった。

 

 2002年8月末,各国からの研究者が南アフリカのケープタウン大学に集まり,マントファスマのすむナマカランドに向かった。ナマカランドは南アフリカの中でも最も乾燥の厳しいところだ。

 

 ナマカランドは,ナミビア南部から国境をまたいで南アフリカに続く砂漠地域で,わずかな雨の降る6月~9月には植物も繁り,春にあたる8月~9月にはみごとなお花畑が出現する。夏期(10月~3月)には完全に砂漠と化す。

 

 日本の昆虫の生活史とはずいぶん違うので慣れるまでは戸惑うが,冬から春にかけて(6月~9月)のわずかに雨の降る時期に,ほとんどの昆虫類がいっせいに現れる。つまり,この3カ月の間に,卵からかえってすばやく成長し,繁殖までを行わなければならない。そして乾ききってしまう厳しい夏期を卵で越す(越夏)。

 

 9月6日の昼頃,交尾をするマントファスマのペアを初めて確認できた。これを皮切りに,9組の交尾ペアを観察できた。驚いたのは,交尾時間の長さだ。野外で交尾中のペアは,人が捕まえたくらいでは離れることはない。周囲の植物とともに密閉容器に入れ,デコボコ路を車に揺られながら運んでもお構いなしで,数日間も交尾を続けるのである。

 

 野外で採集した交尾ペアは,いつから交尾していたのかが定かではなく,短く見積もらざるを得ないのだが,それでも,長いペアで4日間,平均すると(これも短く見積もって)3日弱ほどの交尾時間だった。また,あるペアでは,約3日間交尾を続け,いったん離れた後に同じ相手と交尾を再開し,さらに2日間続いたという記録も得られた。おそらくは,最も長く交尾をする昆虫の一種だろう。(本文より)

著者

東城幸治(とうじょう・こうじ) / 町田龍一郎(まちだ・りゅういちろう)

東城は独立行政法人・農業生物資源研究所発生分化研究グループ発生機構研究チーム(日本学術振興会・科学技術特別研究員),理学博士。共著者である筑波大学の町田龍一郎助教授のもとで博士号を取得した。町田は筑波大学生物科学系助教授,理学博士。専門は動物系統分類学で,特に昆虫類と節足動物の系統進化や昆虫の起源を研究している。南アフリカのマントファスマ・プロジェクトに参加し,発生の研究を担当している。

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カカトアルキナマカランド乾燥への適応生活史発生系統学