日経サイエンス  2002年12月号

特集:時間とは何か

時計年代記

W.J. H. アンドリューズ(博物館コンサルタント)

 時を知ろうとする人類の試みは,いつの時代にあっても科学技術が発展する原動力となった。古代のエジプト人やギリシャ人,ローマ人は昼や夜の時間を区切るために,日時計や水時計といった時を測る器具を発明した。西欧世界はこの技術を取り入れたが,やがて確実に時を測れる機械への需要が高まり,13世紀頃までに中世の職人たちが機械式時計を発明した。

 

 それまで修道院や都市社会では機械式時計で事足りていたが,振り子による時計が登場するまでは正確さも信頼性もきわめて低く,科学には役立たなかった。その後開発された精密な時計は,海上で船舶の位置を知るという重要な問題を解決し,産業革命と西欧文明の発達にも大きな役割を果たした。

 

 現代では,ほとんどの電子機器はきわめて正確な時計で基準周波数が設定されている。たとえば,ほぼすべてのコンピューターは計算を制御するクオーツ時計を内蔵している。さらに全地球測位システム(GPS)の人工衛星から放射される時報信号が,ナビゲーション装置の正確な位置を示す。

 

 同様に携帯電話や即時株取引システム,全国的な電力供給網もこの信号を利用している。このように現代では時間にもとづく技術があまりにも生活に身近になっているので,故障したときでもないと,時間の技術に依存していることにも気づかない。

 

 

暦の始まり
 考古学的証拠から,バビロニアとエジプトでは遅くとも5000年前までには時を測り始めていたことがわかっている。共同体の活動や公共の行事を計画・調整し,また品物を出荷する時期を決めるため,特に種まきと収穫を適切に行うために暦を導入した。

 

 この暦は3種類の自然の周期にもとづいていた。ひとつは太陽日(たいようじつ)だ。これは地球が地軸を中心に回転する自転による昼と夜の周期で区切られる。もうひとつは太陰月(たいいんづき)で,地球の周囲を回るために生じる月の満ち欠けによる。そして太陽年は,地球が太陽の周りを回る公転にともなう季節の変化で区切られる。

 

 人工の明かりが発明されるまでは,月は社会に大きな影響を与えていた。特に季節の変化があまりない赤道付近に住む人々にとっては,月の満ち欠けの方が目立つ自然現象だった。そのため低緯度地域で作られた暦は,太陽年より月の周期の影響を強く受けた。

 

 一方,北方の地域では季節にしたがう農耕が重要だったため,暦も圧倒的に太陽年の影響が大きかった。ローマ帝国が北へ拡大するにつれ,暦の大部分は太陽年にもとづくものになった。今日のグレゴリア暦はバビロニアとエジプト,ユダヤ,ローマの暦に起源をもつ。

著者

William J. H. Andrewes

博物館コンサルタント。30年にわたり時間計測の歴史を専門に活動。ハーバード大学をはじめとする研究機関で学芸員をつとめた。一般・学術誌への寄稿に加え,『経度への挑戦』(D.ソベル著,1997年,翔泳社)を編集。ソベルとの共著にThe Illustrated Longitudeがある。最近手がけた展覧会はニューヨーク市フリックコレクションでの“TheArt of the Timekeeper”展。

原題名

A Chronicle of Timekeeping(SCIENTIFIC AMERICAN September 2002)

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