日経サイエンス  2002年12月号

特集:時間とは何か

タイムマシンの作り方

P.デイビス(マクォーリー大学)

 ウェルズ(H. G. Wells)がかの『タイムマシン』を執筆したのは1895年のこと。以来,タイムトラベルはSF小説の人気のテーマであり続けている。だが,本当にそんなことができるのか?タイムマシンをこしらえて,過去や未来へ旅することなど可能なのだろうか?

 

 何十年もの間,タイムトラベルはまともな科学とはほど遠い話題だと考えられてきた。理論物理学者が研究対象として取りあげるようになったのは近年のことで,それも大々的に本腰を入れてというのではなく,一種の息抜きのようなものだった。タイムトラベルに思いをめぐらすのは楽しいものだから。しかし,この研究には極めて真面目な一面もある。タイムトラベルがはらむ因果関係を解明できれば,物理学の統一理論をうち立てる重要なカギとなる。過去や未来を自由に行き来するのがもし可能だとすれば,たとえそれが理論上のことであっても,統一理論の根幹部分に強烈な影響を与えるだろう。

 

 時間とは何か。現在のところ最善の考え方は,アインシュタインの相対性理論が示すものだ。相対性理論が登場するまで,時間は絶対的かつ普遍的なもので,どんな物理的環境においても万人に同じように流れるのだと,誰もが信じていた。しかし,アインシュタインは特殊相対性理論の中で,2つの事象が発生した時間間隔を測定すると,その結果は観測者がどのような運動状態にあるかによって違ってくると提唱した。つまり,2人の観測者が異なった動きをしていれば,同じ2つの事象の間隔が異なるというのだ。

著者

Paul Davies

理論物理学者。シドニーにあるマクォーリー大学オーストラリア宇宙生物学センターに在籍。一般向けに物理学分野の書籍を数多く執筆している。研究分野はブラックホール,量子場理論,宇宙の起源,意識の本質,生命の起源など広範囲に及ぶ。

原題名

How to Build a Time Machine(SCIENTIFIC AMERICAN September 2002)

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