日経サイエンス  2002年12月号

特集:時間とは何か

時間はどのようにして始まったのか

佐藤勝彦(東京大学)

 私たちの住むこの世界には,始まりというものがあったのだろうか。もし始まりがあったのなら,その前はどうなっていたのだろう――。だれもが一度は抱いたことのある疑問だろう。

 

 現在の標準的な宇宙理論「ビッグバンモデル」によれば,宇宙は130億年の昔に“無”から創成され,膨張を続けている。しかし,この相対論的宇宙論には大きな問題がある。宇宙の始まりが“尖っている”,つまり物理量が無限大になってしまう数学的特異点になっているということだ。これは,時空が不完全で自己完結的でなく,外からこの宇宙を支配する情報が入り込んでくることを示しているという。この矛盾を回避するために,さまざまなアイデアが提案されている。

 

 ビレンキンの「無からの創成」は,何もない“無”から突然,有限の大きさの宇宙が生まれることを示した。時間に始まりがあったということになる。一方,最近の「エキピロティック宇宙モデル」によれば,宇宙は永遠に膨張収縮を繰り返し,時間には始まりも終わりもないことを示唆している。

 

 さて,著者の結論は‥‥。

著者

佐藤勝彦(さとう・かつひこ)

東京大学教授で理学部長・理学系研究科長,理学博士。1945年生まれ。超新星爆発のメカニズム解明に大きく貢献したほか,いち早く初期宇宙のインフレーション現象を指摘,宇宙論研究の指導的研究者として世界的に知られる。2002年に紫綬褒章を受章。

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