
コンピューターをより速く働かせようと,新設計のチップが登場した。クロック信号を使わない非同期方式だ。各部分が協調しあい,ムダのない処理を実現する。
現在のコンピューターはほとんどが同期型だ。水晶振動子が作り出すクロック信号に合わせてすべての動作が進む。しかし,この方式ではシステム全体の処理速度は最も遅い回路によって制限されるほか,有用な処理をしていない時でも電力を消費してしまう。高速のクロック信号を伝達するためのチップ設計も難しくなっきた。
これに対し非同期型システムは回路の部分部分が協調し合うことによって,データが順序正しく流れるよう保証する。協調をとるための工夫が重要で,「ランデブー回路」と「アービター(調停)回路」という2つの回路がある。高速性,消費電力の低減,電磁波障害の抑制などの利点が期待でき,実際に非同期型の設計を取り入れた製品も登場した。
集積回路が複雑になるに従い,回路設計者にとって非同期技術は見逃せないものになるだろう。将来は“時計を持たないコンピューター”が主流になるかもしれない。
著者
Ivan E. Sutherland / Jo Ebergen
サザーランドは対話型のグラフィックプログラム「Sketchpad」を1963年に発明するなど,「コンピューターグラフィックスの父」として知られる。1960年代半ばにハーバード大学で画像処理プロセッサーを開発する間に非同期回路の設計にかかわるようになった。現在はサン・マイクロシステムズの副社長兼フェローで,同社の非同期回路設計グループを率いている。エバーゲンは20年前,カリフォルニア工科大学の研究助手として3カ月の短期勤務をしたときに,非同期回路の設計に魅了された。その後,オランダのアイントホーフェン工科大学とカナダのウォータールー大学で教え,1996年にサンの非同期回路設計グループに加わった。2人とも,非同期コンピューティングの熱狂的な支持者だ。
原題名
Computers without Clocks(SCIENTIFIC AMERICAN August 2002)
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