日経サイエンス  2002年10月号

若返り商品ブームの現実

S.J. オルシャンスキー(イリノイ大学) L. ヘイフリック(カリフォルニア大学サンフランシスコ校) B. A. カーンズ(シカゴ大学加齢センター)

 老化にさからい,寿命を延ばそうという試みは,少なくとも紀元前3500年の昔にまでさかのぼる。以来,不老不死の霊薬を売り込む自称専門家は後を絶たない。不死への思いは世界中の人々の心をつねに動かしてきた。アレクサンダー大王をはじめとする権力者たちは伝説に残る“若さの泉”の探求に駆り立てられ,錬金術師はこの世で最も効き目のある不老不死の薬と信じられていた黄金を作りだそうとした。

 

 だが最近では,あやしげな“老化防止法”が大々的に宣伝されるようになり,大きな問題となっている。だまされやすく,何が何でも若々しくなりたいと望んでいるさまざまな年齢層の客を誘い込み,自分たちの勧める老化防止法には科学的根拠があると言って売りつける企業があまりに多い米国の現状に不安を感じる。しかも老化防止薬で一儲けしようという連中は,インターネットで新しい客をいとも簡単に見つけられるのだ。

 

 こうした傾向に危機感を覚え,私たち老化研究者は声明を発表した。現在市販されている製品には,老化を遅くしたり,止めたり,若返らせたりする効果が証明されているものは1つもなく,実際には明らかに危険なものさえあると警告した。

 

 もちろん,生物学者は老化の本質を突き止めようと熱心に研究を続けている。そうすれば,いつかは老化の進行を遅らせ,老衰が起こる時期を先延ばしにし,クオリティ・オブ・ライフ(生活の質,QOL)を向上させる方法を見つけられると信じているからだ。その一方で,大げさな宣伝や偽りの情報に振り回されている人も大勢いる。今現在,若返りや老化防止効果をうたった製品を販売している者は,間違えているか嘘をついているかのどちらかだ。

著者

S. Jay Olshansky / Leonard Hayflick / BruceA. Carnes

3人は老化研究を長く続けており,ここで議論されている老化に関する声明を起草する際には先頭に立った。オルシャンスキーはシカゴにあるイリノイ大学の公衆衛生学部の教授。ヘイフリックはカリフォルニア大学サンフランシスコ校の解剖学部の教授。カーンズはオルシャンスキーも研究する国立オピニオン・リサーチ・センター/シカゴ大学加齢センターの上級研究者。 ※51人の老化研究者による声明「The Truth about Human Aging」の全文はSCIENTIFICAMERICAN誌のウェブサイト http://www.sciam.com/explore_directory.cfm/から読める。

原題名

No Truth to the Fountain of Youth(SCIENTIFIC AMERICAN June 2002)

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