
物質や力のもとになっている素粒子の本質とは何か?その謎に迫るために考えられたのが「超対称性」という奇妙でつかみどころのない理論だ。この特殊な対称性がある種の原子核に姿を現した。自然の奥深くに潜む対称性に目を向ければ,宇宙を支配している深淵な原理が見えてきそうだ。
自然界にはさまざまな素粒子が存在するが,見かけは異なっていても相互に深い関連を持つものが多い。この関連性のことを「素粒子の対称性」という。素粒子の振る舞いを記述する方程式に由来する数学的な性質だ。素粒子物理学の理論は対称性に基礎を置いている。
しかし,素粒子は「フェルミ粒子」と「ボース粒子」と呼ぶまったく違う2つのタイプに分けられ,通常の対称性では両者を関連づけられない。この限界を打ち破ろうと導入されたのが「超対称性」という特殊な考え方だ。理論的な研究は進んだが,素粒子の超対称性を裏付ける実験結果はまだ出ていない。
一方,原子核の中では陽子と中性子がそれぞれペアを作り,複合ボース粒子として振る舞う。このため,陽子と中性子それぞれが完全にペアを作れるかどうかによって,原子核には4つの異なる種類ができる。ある種の超対称性がこれら4つの原子核タイプを関連づけていると予測され,金と白金の原子核を使った近年の実験によってそれがようやく確かめられた。理論上の観念にすぎなかった超対称性が実際に姿を現し,自然界の奥深くを探る新しい手がかりが得られた。
著者
Jan Jolie
理論家としてスタートし,1986年にベルギーのゲント大学から理論物理学でPh. D.を取得。フランス・グルノーブルのラウエ・ランジュバン研究所に5年間在籍した後,研究の主眼を実験に転じ,1992年にスイスのフリブール大学に移った。本文に紹介されている実験のほか,ガンマ線や中性子線を利用した断層撮影や波長可変ガンマ線源など,より実際的な応用も研究している。現在はドイツのケルン大学核物理研究所の所長。原子核の力学的対称性と超対称性に関する研究で,2000年に米エール大学からリー・ページ賞を受けた。
原題名
Uncovering Supersymmetry(SCIENTIFIC AMERICAN July 2002)
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