日経サイエンス  2002年10月号

特集:どうなる東海大地震

3つの異変が示す早期発生の可能性

松村正三(防災科学技術研究所)

 1976年に東海地震説が発表され,その震源域では世界最高水準の観測網が整備された。今では,地殻やプレートの動きをセンチメートル単位で把握できるようになった。

 

 近年になってそれらの観測データに“異変”が見られるようになった。(1)東海地震が起こると想定される震源域での地震活動の低下(静穏化)(2)浜名湖直下のプレート境界で進行する地震動を伴わないゆっくりとしたすべり(スロースリップ)(3)太平洋に突き出た静岡県御前崎の沈み込みの停滞――だ。しかも,ほぼ同時に進行している。

 

 静穏化について,私は地震活動が低下している部分の地殻がゆっくりすべり始めて少しずつ歪みが解放され,アスペリティーと呼ばれる特に強く固着した部分にしわ寄せがきているのではないかと考えた。米国での地震の調査をもとに,アスペリティーの面積と前兆現象の持続時間が比例関係にあると推測し,東海地震の発生時期を見積もったところ2004~2006年になった。

 

 こうした予測値を報告をしているのは私だけではない。私を含めてみな2010年までに東海地震が起きると予測している。これは単なる偶然とは考え難い。

 

 しかし,東海地震と直結させるには問題がある。東海地震の震源域でいま起きている地震や地殻の活動の動きは異変と呼べる。ただ,東海地震の前兆かどうかは確かな証拠があるわけではない。

 

 「東海地震はいつ起きてもおかしくない」という言葉は今も生きている。東海地震については,地震発生の恐れが高いと判定された場合は直前警報が出される。だが,いきなり赤信号が出ても,現実的な対応はできない。その前段階としての黄信号が必要になる。今の予測はこの程度にとらえてもらうのが望ましい。

 

 むしろ,この程度の異変をきちんとキャッチできるようになった点を評価すべきだろう。ここまで観測精度が上がったということは,東海地震の異変を見逃さないだろうと期待させる。

著者

松村正三(まつむら・しょうぞう)

独立行政法人防災科学技術研究所固体地球研究部門副部門長。理学博士。微小地震観測データの解析による地震発生機構の研究をしている。特に,東海地震をターゲットにして同地域の地震活動の様式とその変化に注目している。この研究で1996年に科学技術庁長官賞を受賞した。

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