
ホシバナモグラ(Condylura cristata)の体重はわずか50g,マウスのほぼ2倍しかない。米国北東部やカナダ東部の湿地の浅いところにトンネルを掘って住み,地下と水中の両方で餌をとる。モグラの仲間(哺乳類食虫目)は約30種ほどで,いずれも代謝率が高い。そのため小さな体の割に食欲旺盛で,寒さの厳しい北の冬を生き抜くために大量の餌を探し出さなくてはならない。
土の中のミミズを捕まえるのは他のモグラと同じだが,ほかにも肥沃な泥の中にいるごく小さな無脊椎動物や幼虫を捕まえたり,湿地にある住みかを離れ,池や小川の濁った水底を泳いで,餌を片っ端から見つけ出す。
星形の鼻は餌探しのときに威力を発揮する。ホシバナモグラの鼻は嗅覚系の一部でもなければ,もう1本の手として餌集めに使われるわけでもない。敏感な触覚器なのである。
星鼻は22本の突起でできている。構造を調べたところ,驚くことに星鼻は感覚受容器のかたまりで,アイマー器官とよばれる小さな突起がびっしりと並んでいた。ホシバナモグラがこの鼻を使って瞬時に餌を見分けるられるのでは,ものにさわったときの情報を伝える神経組織が効率よく働いているからだ。さらに,星鼻の機能や重要度は,脳の新皮質の体性感覚野に正確に再現されていることもわかった。(編集部)
著者
Kenneth C. Catania
カタニアがホシバナモグラと最初に出会ったのは,何年も前にワシントン国立動物園で働いていたときのことだ。現在はバンダービルト大学生物科学部の助教授で,哺乳類の感覚系や新皮質の構造について研究している。メリーランド大学で動物学の学位を,カリフォルニア大学サンディエゴ校で神経科学の博士号を取得。神経行動学の業績に対して贈られるカプラニカ賞,国際神経行動学会若手研究者賞,サール奨学賞を受賞している。
原題名
The Nose Takes a Starring Role(SCIENTIFIC AMERICAN July 2002)
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